第42話 業火
頭が痛い…
吐き気もする…
過去の記憶が脳裏によぎる度に、いつも襲われる症状だ…
自分を逃がすために血まみれになった兵士や侍女…
居心地の良かった住居は炎に包まれていた…
煙と血の匂いがむせるほど立ち込めている…
少年は姿の見えぬ襲撃者たちを恐れた…
どこをどう逃げたか分からないが隠れ里になんとか辿り着いた…
いままでとは違う貧しい生活…
寒村の中で腫れ物のように扱われた…
いつ裏切られて敵に売られるか…
毎日が恐怖で満ちていた…
いざという時のために、付き添ってきた最後の老兵士とともに、山に隠れ家を作った…
老兵士が死ぬと、案の定、村の者は自分を売った…
必死に隠れ家へと逃げた…
息を潜めて、食事もとれずに何日も隠れた…
1週間ほど隠れ、捜索の手が及ばないのを確認すると村に火を放った…
村を焼き尽くす巨大な炎…
それを見つめる少年の眼には、仄暗い炎が灯されていた…
村を離れ、雑多な人が集まるサイラスへと移った…
名を偽り、冒険者として稼ぐことを決意した…
彼は魔法を使えた…
そのため、迷宮に挑戦する冒険者に臨時の随伴をして稼ぐことができた…
迷宮から宿に戻ると、呪いや黒魔術と呼ばれるものを片っ端から試した…
ほとんどがまやかしだった…
やがて冒険者として名が売れ始めた頃、1人の旅の魔道師が彼に興味をもった…
自分の下で魔術を極めないかと言われた…
魔道師の名前には覚えがあった…
自分に魔法を教えた者と並び称えられていたからだ…
彼は力を欲した…
その魔道師に師事し、修行に励んだ…
やがて魔道師は死に、その間に彼は巨大な力を手に入れた…
彼の眼にはまだ暗い炎が燃え盛っていた…
全てを焼きつくさんばかりの炎…
自らの身も焼き尽くす炎…
子どもの頃に住処を追われたあの日から、その炎に身を焦がし続けていた…
復讐する…すべての生きとし生けるものに…
この世界をすべて焼き尽くす…草の1本も生えぬ焦土とするのだ…
彼は力を貯えていた…
昔の地位を取り戻そうと近寄ってくる者…
彼の力を利用とする者…
それらをすべて彼の力として利用していった…
彼の眼には何も映っていない…
寄ってくる者も憎悪の対象である…
敵意、憎悪、虚無感…
それしか彼にはなかった…
かつて黒魔術を行おうと集めていた本…
その中の1冊に禁忌の魔法が記されている物があった…
『魔界の黒炎を召喚する魔法』
この魔法で世界を黒炎で包む…
何も残らない…自分の遺体さえも残らぬほどの業火で世界を焼き尽くすのだ…
そのためには生贄が足りない…
かつて彼に魔法を教えた者は魔人王を召喚したという…
しかし戦局を覆すことはできなかった…
生贄の数は、その魔人王を召喚するのにもまだ満たない…
生贄を増産するために、迷宮の魔物を解き放つという方法は上手くいっていない…
もっともっと生贄が必要だ…
彼は唯一の弟子を使い、別の方法に着手した…




