第37話 Intensive training ~サロス~
イボスの冒険者ギルド。
その中に併設された訓練場にサロスはいた。
サロスは、サイラス迷宮の探索を共にしたサディアスからの助言を思い出していた。
『殿下の剣は、陛下の剣に良く似ておいでだ。
常に急所を狙った必殺の剣。相対してみて、改めて殿下の成長を感じましたぞ。
しかし、殿下の剣は素直すぎるようにも感じますな。繰り出される手、全てが本気。
そこには遊びも虚実もない。陛下は、そこを突き詰めて必殺の突きを身に着けられた。
殿下も同じ道を進むというのも選択肢の1つでしょう。
ただ、この老いぼれの身に着けた剣技も1つお見せしておきましょう』
そういって、打ち合ったサディアスとの稽古。
サディアスはサロスの剣を全て受け切ると、大きく上段から切り伏せてきた。
サロスには、確かにそう見えた。
上段から繰り出される剣を受けようとした瞬間、サディアスの剣が消えた。
気がつくと、サロスの左のわき腹にサディアスの剣が突きつけられていた。
『参りました…』
『ふむ。やはり殿下には見えましたか』
満足げにサディアスは頷く。
『一体、どういうことですか?師匠?!師匠の剣が消えました。
あんな大振りな動きを見逃すなんて…』
サロスが呆然とつぶやく。
『殿下。私が上段から剣を振り下ろすのが見えましたか?』
『ええ、確かに』
『それは殿下がお強いからです』
禅問答のような回答にサロスは戸惑う。
『実際には、私は上段に構えてなどいません』
『そんな馬鹿な!確かに師匠は上段から切りつけてきた…』
『そうイメージした殺気を送ったのですよ。つまり幻のようなものです』
『幻!?』
『未熟な者には逆に通用しませんが、強者には幻を見せることができるのです』
『それは一体…』
『強い剣士は、動きだけで相手を追ってはいません。予備動作、目線、呼吸…
いろいろな物を見て、次の攻撃を予測しているのです。
それは強ければ強い剣士ほど、無意識のうちに行っている。
より強い剣士であれば、殺気も含めて相手の動きを見ているのです』
『では、私は自分が作り出した幻を見たということですか?』
『さすがは殿下!その通りです。本気で打ち込む殺気、それだけを私は出した。
殿下の強さがそれを映像として見てしまった。そしてその幻に反応する動きは完全な隙となります』
説明を頭では理解したサロスだが、先ほど見た幻の太刀筋はリアルすぎて未だ信じられない思いであった。
『陛下のように無駄をそぎ落としていく極め方も1つ。
先ほどお見せした虚実を混ぜた剣を極めていくのも、また1つの道だと思っています』
サディアスの穏やかな声に、サロスは素直に頭を下げた。
『師匠!ありがとうございます!』
サロスは目を閉じて剣を構え、サディアスの幻の太刀筋を思い出していた。
「本気の殺気…」
そうつぶやくと、剣を振り始める。
時折、一拍おいて剣が振られる。
その様子をムラマサが少し離れて見ていた。
しばらくすると、ムラマサの目にうっすらとした太刀筋が時折見えるようになってくる。
「達人の技をこんなに早く身に付け始めるとは、英雄王の血は恐ろしいの」
そうつぶやくと、サロスに近づいていく。
「サロス。1人ではやりづらいじゃろ。どれ、わしが相手をしよう」
「ありがたい。頼む」
何かを掴みかけている感覚を研ぎ澄ましたかったサロスは、ムラマサの好意をありがたく思う。
ムラマサは愛用の戦斧を構えると、サロスと打ち合う。
互いに必殺の一撃を放ち続ける。
実際に相手と打ち合ってみると、なかなか幻の太刀筋を出せない。
まともに打ち合うので精一杯になる。
しかし、それだけが原因ではない。
怖いのだ。
もし、殺気を放っても成功しなければ、自ら隙を作るだけになってしまう。
サロスは本気の打ち合いの中で、その勇気が出せずにいた。
「どうした?ただ打ち合うだけでよいのか?」
ムラマサがサロスの様子を見て取り、発破をかける。
悔しさに奥歯をかみ締めるサロス。
それでも、しばらくただ打ち合う。
レベルでは遥かに凌駕しているサロスだが、ムラマサは歴戦の強みを魅せる。
大きな戦斧を使用しながらも、上手くフェイントを織り交ぜながら技術で実力差を埋める。
いつ果てるともなく、打ち合う2人。
こうして、夜が明けるまで2人の剣戟の音が訓練場に響き続けたのであった。




