第36話 もう1つの迷宮都市
冒険者で賑わう店内で、なんとか席を確保するアマンたち一行。
酒場の喧騒は、この街でも変わらないようだ。
サロスが皆の分の夕食と特産の蜂蜜酒を注文しながら、近くで飲んでいる冒険者に話しかける。
「なあ、あんたたちも冒険者だろ?
俺たちはイボスから今日来たばかりなんだが、こっちの迷宮はどうだ?」
「なんだ?新入りか?こっちはイボスの迷宮ほど甘くはねーぞ」
屈強な体格を持った戦士らしき冒険者が答える。
「量も質もサイラスの迷宮の方が高いって聞いて、俺たちもやってきたんだ」
サロスの返答に薄笑いを浮かべながら、先ほどの冒険者が答える。
「ぼっちゃんたちは、イボスで腕試ししてた方が身のためだぞ」
「まあまあ、そう言わずに。お姉さん、こっちの兄さんたちにも蜂蜜酒持ってきて」
サロスが酒を奢るそぶりを見せると、にらみを利かせていた冒険者たちが視線を緩める。
「おお、わかってるじゃねーか。
さっきも言ったがこっちの迷宮の方は、上位種が集団を統率しているし遭遇する量も多い。
少しでも遭遇した魔物に梃子摺れば、ほぼ間違いなく後ろから他の魔物が襲ってくる」
今度は真剣な顔で忠告する冒険者。
「なるほど。さすが、ためになるなあ。兄さんたちは何階層を探索してるんだい?」
「俺たちは第5階層まで潜れはするが、第4階層で探索してる」
サロスの問いに胸を張って答える冒険者。
「そいつはすげえや。下層に潜って行っても、違う階層の魔物が現れたりはしないのかい?」
「何いってんだ?そんなことあるわけねーだろ。
まあ、まだ下の階層まで潜れなくて不安なのはわかるが、そこは安心していいぞ」
「そうか、安心したよ。ありがとう」
「こっちこそ、ご馳走になるな」
そう言って笑いながら、自分たちのパーティの話に戻っていく冒険者。
「目新しい情報はないか」
サロスがつぶやく。
「噂にもなっていないようですね」
アマンがそれに答える。
「何日か探索と聞き込みをするしかあるまい」
サディアスがそう言うと、サロスもアマンも頷く。
「しかし、あなた王子様のくせに随分と場末の雰囲気に慣れているわね」
シトリーが呆れたように言う。
「こっちの方が性に合ってるんだよ」
そういって、サロスは笑う。
アマンたち一行は、このような生活を3日過ごした。
朝から昼は迷宮に潜って探索しながら異変がないか見回り、夜は酒場で情報収集という生活だ。
しかし、魔物の転移に関する情報は全くつかめなかった。
「サイラスの迷宮では、犯人たちは転移を行っていないのかもしれませんね。
まだ行っていないだけかもしれませんが…」
アマンの言葉にサディアスが頷く。
「とりあえずは異変が起きていないことを良しとしよう。
ただ念のために、高ランク冒険者向けに見回りの依頼は冒険者ギルドへ出しておこう」
こうして何の成果も得られないまま、サイラスでの調査は終了しトラネスへと戻ってきた一行。
成果は何もないが、サディアスとしては実際に領地で異変が起きていないことを確認できて安堵していた。
「冒険者諸君、今回はいろいろと世話になった。
犯人の手がかりがつかめなかったことは残念だが、領主としては異変がなくてホッとしている」
「いえ、こちらこそお世話になりました。『魔道剣士』の戦いを間近で見られ大変勉強になりました」
アマンが代表して挨拶する。
実際、自分たちよりも遥かに格上の戦闘力を見せられ、パーティメンバー各々が感じるところがあった。
それは確かな収穫であるとアマンは感じていたのである。
「そうか、それは何よりだ。だが、シトリーとムラマサに関しては冒険者として完成しているからな。
自分の戦い方が出来上がっているから、あまり参考にならなかったのではないかな?
しかし、後の3人はまだまだ伸びしろがあると思うぞ」
サディアスの言葉に、シトリーとムラマサが微妙な表情を浮かべる。
言い換えれば、これ以上の伸びしろがないということだからだ。
ここから更に上に行くためには、できあがっている何かを壊す必要があると気づかされた。
一方、アマンとサロスは悔しそうな顔をしていた。
圧倒的な経験の差を見せ付けられ、それを指摘されたからである。
相性だけではなく、歴戦の仲間と肩を並べるだけの「自分の戦い方」を創り上げる必要があると痛感させられた。
「師匠!明日にはイボスに出立する予定ですが、これから稽古をつけていただけないでしょうか?」
サロスがそう言うと、珍しくエイミーも声をあげる。
「是非、私もお願い致します!」
サディアスは1人の武人として、2人の反応に好感を持った。
「わかりました。短い時間ですが、お相手いたしましょう」




