第32話 サロスの苦悩
アマンたちの乗った馬車が、エンフィニア領の中心地トラネスの街に辿り着いた。
街を覆う防壁の入り口では、街に入る手続きをしている商人などで長い列をなしている。
アマンたちも大人しくその最後尾に並んだ。
商人がこれだけ並ぶということは、王国の経済もトラネスの経済も順調に回っているということだ。
そんなことをぼんやり考えながら順番を待っていたアマンだが、サロスの真剣な表情に気づき声をかける。
「サロス。ここまで来たら、腹を決めるしかないですよ」
「アマン。お前は師匠の怖さを知らないから、そんな暢気でいられるんだ」
「その話は、これまでにも何度もしたでしょう」
「ああ、なんとか顔を会わせずに依頼が達成できないかな」
「護衛の任務で、それは無理ですよ。いい加減あきらめてください」
サディアス公爵は、先王の時代に騎士団長を務めたほどの強者。
当時、大陸に3人しかいないといわれていた『魔法剣士』であった。
騎士団長の任を解かれ、公爵として領内の統治をしてきたが鍛錬を怠ることはなかった。
その証拠に属性が上がり、『魔道剣士』にまでなっているのであった。
また、現国王の剣の師でもあり、その子弟である王子たちにとっても剣の師となっていた。
特に兄弟の中でも抜きん出た才能を持ったサロスは、サディアスから厳しく鍛えられていた。
通常の剣の修行に加え、『魔法剣士』になる可能性も考え鍛えられていたのである。
いつもボロボロになるまで鍛えられているサロスを兄たちは、哀れんだ目線を送ったものであった。
しかし、兄たちも余計な口は出したりしなかった。
判定の結果、サロスの属性は『聖剣士』ではあった。
しかし、通常の『聖剣士』は治癒魔法や聖魔法を使える剣士というだけである。
確かに、それだけでも稀有な能力ではある。
ただ、サロスはこの2つの属性の魔法を魔力付与することができた。
『聖剣士』という珍しい属性の中でも、特別な存在といえた。
そして、それはまさしく『魔法剣士』流の訓練を受けた賜物であった。
その厳しい訓練の期間もあり、サロスは師匠であるサディアス公爵に頭が上がらないのである。
頭が上がらない理由は、もう1つあるのだが…
そんなサロスの苦悩とは裏腹に、冒険者カードを提示して問題なく街へと入る。
「思ったよりも栄えているのね」
シトリーの感想にアマンが答える。
「エンフィニア領は高原なので作物などは、なかなか生産できません。
しかし、鉱物が産出されることに加え、養蜂も盛んになり蜂蜜酒が特産品になっています」
「蜂蜜酒か。わしはエールの方が好きじゃが、金持ちはこぞって買うようだからの」
ムラマサの言葉にアマンが続ける。
「これらの特産に加え、サイラスからもたらされる魔物の材料もあります。
商人たちは穀物を売ると同時に、特産品と迷宮の産物を買いつけ、各地方でまたそれを売るのです」
そんな会話をしていると、門番に聞いたとおり迷わず公爵の居城に辿り着く。
戦がなくなって時間が経つが、十分に防衛能力をもった城である。
ここにも領主の人となりが表れている。
城の門番に冒険者ギルドからの紹介状を渡すと、すぐに入城を許可される。
一旦、馬車を預けて城内へと入る一行。
案内役の役人に連れられて、公爵の執務室へと通される。
「公爵様。イボスから冒険者の方々が到着されました」
「わかった。中へ通してくれ」
流麗たる声が廊下にまで響いた。
戦場でも、遠くまで良く響く声だとアマンは思った。
執務室の扉が開き、中へ通されると初老の男性が執務机から立ち上がった。
その佇まいは、現役の戦士そのものであった。
戦闘力に自負のある一行であったが、目の前の男性の放つ覇気に気おされていた。
「遠いところをよく来てくれた。私が領主のサディアスだ」
目線でソファーへと促されるが、その迫力になかなか動けない一行であった。




