第27話 鍛冶師
イボスの町の中心部にある鍛冶屋。
そこに併設されている武器屋にアマンたちは訪れていた。
「いらっしゃい!」
店員から威勢の良い声をかけられる。
「すみません。こちらにムラマサさんはいらっしゃいますか?」
「ムラマサに用かい?珍しいお客さんだね?
ムラマサなら隣の工房にいるから、そっちで声をかけてみてくれるかい」
「ありがとうございます」
一旦、店を出て隣の工房に向かい、中へ声をかける。
「すみません。こちらにムラマサさんはいらっしゃいますか?」
しばらく待っていると、職人らしい人間の男性が出てくる。
「こっちでは物は売ってないよ。買い物するなら、隣の武器屋に行ってくんな」
「いえ、私たちはムラマサさんに用事があってお伺いしました。
ムラマサさんはいらっしゃいますでしょうか?」
アマンの言葉に不審げな顔をする職人。
「ムラマサに用事?あんたら、あいつの知り合いかい?」
「そうよ。シトリーが来たっていえば通じるわ」
アマンの代わりにシトリーが答える。
「…ドワーフにエルフが尋ねてくるなんてな…
こりゃ季節はずれの雪でも降るのか?…まあ、ちょっと待ってな」
職人が奥へと向かって、しばらくすると不機嫌そうなドワーフの男が出てきた。
「お主に用事などないのだがの」
男は、サロスの半分くらいの身長に樽型の体型をして髭を生やしている。
つまり、いかにもドワーフという外見だ。
「あなたになくても私にはあるの」
とげのあるシトリーの言い方に、余計に不機嫌そうな顔をするムラマサ。
「できればエルフの顔など見たくないもんだがな」
「それはこっちも同じよ」
「まあまあ、話を戻そう」
2人の言い合いにサロスが割って入る。
そんなサロスに鋭い視線を向け問うムラマサ。
「で、なんの用じゃ」
「あんたが第5階層を目指す冒険者だと聞いてきたんだ。
俺たちも第5階層を目指している。
同じ場所を目指す者同士ということで、俺たちのパーティーに入ってくれないか?」
「わしは子どもの遊びに付き合うほど、暇をしとらん」
そう言って、さっさと工房へ戻ろうとするムラマサ。
「ちょっと待ちなさいよ。あんた、本気で第5階層を目指すなら悪い話じゃないわよ?」
ムラマサの背中にシトリーが声をかける。
驚いた顔をしてムラマサは振り返った。
「お主のことは嫌いだが…お主が、そこまで言うのか?」
「ええ。実戦はまだ見たことないけど…私は信用している」
考え込むムラマサ。
そんなムラマサにアマンが声をかける。
「いきなり尋ねてきて、すぐに答えをいただこうとは思っていません。
しかし、私たちは近いうちに必ず第5階層に行きます。
どうか私たちのパーティーに入ってくださることを検討してくださいませんか?」
アマンを見返しながら、ムラマサが答える。
「…検討はしておこう。
…ところでお主らは営業中の鍛冶屋に来て、ただで帰るつもりか?武器を研ぐくらいはしていけ」
その言葉を聞いたシトリーがアマンに目配せする。
それにしたがって、アマンが返答する。
「わかりました。是非、お願いします」
そうしてアマンたちはサロスとエイミーの剣、アマンの短剣をムラマサに預けた。
「2時間くらいしたら、もう1度ここへ来てくれ。それまでには研いでおこう」
そう言って、ムラマサは今度こそ工房に戻ってしまった。
「あいつが自分から武器を預けろなんて言うのは珍しいわ。何か考えがあるんでしょうね」
呆けたような顔をしているアマンたちにシトリーがそう告げる。
「しかし武器がないんじゃ迷宮にも行けないな」
困ったように肩をすくめるサロス。
「仕方ないですから冒険者ギルドに行きましょう。
冒険者ランクBへの課題となる依頼でも探しましょう」
とは言うものの、高ランクの依頼などそうそうあるわけもなく依頼探しは空振りに終わった。
サロスがため息をつきながら、アマンに声をかける。
「こればっかりは仕方ないな…しかし、ランクBにならないと第5階層には行けないしな…」
「丁度いい依頼が来るまでは仕方ないわ。私もそこまでは焦ってないから待ちましょ」
珍しくシトリーが宥める。
「残念ですが、シトリーの言うとおりですね。依頼は気長に待ちましょう。
丁度いい頃合ですし、そろそろムラマサさんのところへ戻りましょう」
4人が工房に戻ると、そこには防具を纏い大きな戦斧をかついだムラマサが待っていた。
「…あんた、一体どうしたの?」
さすがのシトリーも驚いた顔をして尋ねる。
ムラマサは仏頂面のまま、武器を3人に返しながら答える。
「小僧たちの武器は良く使い込まれていた。あんな消耗の仕方は手練でなければ無理だ。
お主の言うとおり、信用できる実力のようじゃ。娘さんはまだまだのようじゃがの」
ムラマサの分析にアマンとサロスは舌を巻いて絶句していた。
「で、その格好はなんなの?」
代わりにシトリーが尋ねる。
「どうもこうも、迷宮へ行くに決まっておるじゃろうが」
こうして新しいメンバーを加えたアマンたちは、この日も迷宮に向かうのであった。




