第20話 商業都市トリスタン
大陸の中心部、ザイード地方にある商業都市トリスタン。
この町は、もともと王国と鉄の国、そして帝国の流通の要となっていた。
現在も各領地の間をつなぐ重要な交易路として、いまだ健在で活気にあふれている。
交易路の都市という性質上、トリスタンには様々な種族が居住、滞在している。
旅人の出入りの激しさもあいまって、この町は独特な文化を育んでいた。
イボスから旅をしてきたアマンたちは、町に入った瞬間から周りをキョロキョロしている。
アマンもサロスも、話には聞いてはいたが、実際に訪れたのは初めてである。
トリスタンの生んだ独特な建築様式、服装、屋台などに目を奪われていた。
しばらくその状態でいたが、正気に戻ったアマンが目的地に向かうことを告げる。
昔、母から聞いていた話を頼りに町を進んでいくアマン。
やがて想像していたとおりの特徴をもつ宿屋を見つけた。
宿屋に入り、アマンが2部屋用意してもらうよう受付の人間に告げる。
人の良さそうな笑顔を振りまきながら、受付係りが応える。
「あいにく今日は満室となっておりまして…
申し訳ありませんが、他の宿屋を紹介させていただきますので」
そう断りの言葉を告げられたが、アマンは言葉を続けた。
「長に用事があるのです」
すると、先ほどまでと打って変わり受付係の目つきが鋭くなる。
「主人に御用事ということでしょうか?一体、どのようなご用件で?」
「いえ。宿屋のご主人ではありません。長に用事があるのです」
「お前、一体何者だ?」
アマンの言葉に、受付係の男が豹変した。
先ほどまでの温和な空気は無くなり、修羅場を潜り抜けた男だけが持つ殺気を放っている。
「アマンが来た。そう伝えてもらえれば分かります」
受付係は、その言葉を聞いても警戒を解かず、3人を鋭く見渡している。
その代わり、傍に居たメイドが奥へ急いで入っていく姿をアマンは視界の隅で確認していた。
殺気だった沈黙が受付周りの狭い空間に漂う。
一触即発…受付係の男の殺気は時間が経つごとに高まっているようだった。
そんなとき、奥から1人の男性が現れた。
少し長めの金髪に紫色の瞳をした細身で肌の白い壮年だ。
壮年の人間であるが、エルフかと思うような美貌だ。
サロスは、男性に対して初めて「美しい」という感想を持った。
男性は涼やかな視線をアマンに送ると、温和な声で話しかける。
「アマンくん、久しぶりだね。大きくなったものだ。
しかし、父上と母上の面影をよく残している」
「長?」
「ああ、彼らは私の客だ。丁重に扱ってくれ。
もちろん部屋も用意するようにな」
「はっ!」
先ほどまでの殺気はどこへやら、受付係がにこやかな対応に変わる。
「長のお客様に大変失礼致しました。
早速、お部屋をご用意させていただきます」
「その前に、用事があるのだろう?私の部屋でゆっくり話を聞こう」
3人は言われるがまま、壮年の後を付いていく。
メイドが紅茶をそれぞれの手元に置いていく。
メイドがいなくなると、壮年は紅茶に口をつける。
アマンたちも紅茶を一口飲んだところで、改めて壮年が口を開く。
「入り口では不愉快な思いをさせたようで、すまない。
改めて自己紹介しよう。私は、盗賊ギルドのギルド長をしているジェイドだ」
「ジェイドさん、今私はこの2人と冒険者をしております」
アマンの言葉に促されるように、自己紹介する2人。
「俺はサロスです」
「エイミーと申します」
「ほう。こんな場所に殿下がお越しになるとは。
相応なおもてなしができずに申し訳ない」
そう言って、頭を下げるジェイド。
サロスは名乗っただけで、自分の出自を知られ驚いている。
そんな様子を見て取ったのか、ジェイドが言葉を続ける。
「驚かせてしまったようだな。ここは盗賊ギルド。
国中の情報が集まってくる場所だ。
当然、アマンくんが連れているサロスといえば、誰かは分かる」
涼やかな声で、穏やかに話を進めていくジェイド。
サロスは、目の前の人物の方がよほど自分よりも王族にふさわしいと思った。
「それで、私に用とはなんだろう?」
「ジェイドさん、急に押しかけてしまい申し訳ありません。
それなのに、お時間をとっていただき感謝致します」
「そんなことは気にしないでくれ。君は大恩ある2人の子だ。
力になれることがあれば、遠慮なく言って欲しい」
何気なく発せられた言葉だが、その中に偽りがないことが伝わってくる。
「お言葉に甘えるようですが、お願いが1つあります。
ジェイドさんは、サリードという名に聞き覚えはありますか?」
「サリード…
サイラスで活躍していた冒険者にそんな名の者がいたと聞いたな。
確か、凄腕の魔道師だとか」
サイラスにいた魔道師…間違いないとアマンは思った。
「その方で間違いないと思います。いま、その方がどこで何をしているかは掴んでいますか?」
「いや。活躍している冒険者として名を聞いただけだ」
「そうですか…いま私たちは、その方…いえ、その方の組織を捜しています。
王都からは尋ねられておりませんか?」
「いや、特には連絡は入っていないが」
「父上は、この件を私たちに任せるおつもりらしい」
ジェイドの答えに、アマンがつぶやく。
「これからは口外できない話となりますが、よろしいでしょうか?」




