第19話 休業
アマンとサロス、エイミーの3人は宿屋の食堂で昼食を取っていた。
アマンたちの部屋では、ルクバートがアマンから聴取した内容を報告している。
使い魔と主人の間には、念話が可能であるからできる芸当である。
3人が食後のお茶を飲んでいると、ルクバートも食堂に現れた。
「坊ちゃま。ご主人様からのご伝言です。
可能な範囲で構わないので、サリードという人物について調査してくれとのことです。
坊ちゃまなら、皆まで指示しなくてもこれで十分だそうです」
「相変わらずだな」
サロスの言葉に、苦笑するアマン。
「わかりました。では、お預かりしていた古文書を父上に返しておいてください」
そう言って、古文書をルクバートに渡す。
「かしこまりました。では私は、これにて失礼致します」
ルクバートが去ると、サロスが問いかける。
「で、これからどうするんだアマン?」
「父上の言い方だと至急というわけではないようです。
一旦、イボスに戻って冒険者ランクの更新とギルド長に言える範囲の話をしましょう」
「となれば、ここともお別れだな」
「そうですね。エイミー、出発の準備をお願いします。
整い次第、イボスに帰ります」
「わかりました、アマン様」
3人は、旅支度を整えるとイボスへ向けて馬車を走らせる。
イボスまでの道のりは、特にトラブルもなく快適な旅となった。
特にアマンはエイミーが元気になり、意思疎通もできるようになったため機嫌が良かった。
イボスに到着したのは夕暮れ間近であったが、3人はまっすぐ冒険者ギルドへ向かう。
いつもの大声を上げられる前に、受付嬢の業務を行っているアーリンの下へ近づく。
「お帰りなさい。アマン様、サロス様、エイミー様。
今回の依頼には、皆さんにしては時間がかかりましたね」
「ええ。ちょっと色々ありまして。
これが依頼内容のオーガの角です。ご確認ください」
「かしこまりました。
…間違いありませんね。依頼達成おめでとうございます。
これで3人とも冒険者ランクDですね」
「ありがとうございます。カード更新の手続きもお願いしていいですか?」
「もちろんです。では、カードをお預かりいたします」
「それと、その間にギルド長と少しお話がしたいのですが」
「例の件でしょうか?」
アーリンが小声になって尋ねる。
「ええ、そうです」
「かしこまりました。カードの更新は他の者にやらせますので、すぐご案内致します」
ギルド長から何か言われているのか、あっさりと面会の許可をもらう。
言葉通り、アーリンの後について、3人はギルド長の執務室へそのまま向かう。
「ギルド長。アーリンです。アマン様たちがお越しです」
「そうか、中へ入ってくれ」
部屋の中から野太い声が聞こえてきた。
扉を開き3人を部屋へ招き入れると、アーリンは自分の席へと戻っていった。
「お前たちがわざわざ来るということは、何か分かったことでもあったか?」
コンガスは強面の顔に鋭い視線を浮かべ、そう言う。
「はい。ご報告しておくべきことがあり参りました」
「依頼でもないのに、すまない。早速話を聞かせてくれ」
「まず、ご報告しなければならないのは、また階層を越えた魔物が現れたということです。
今回は、我々の目の前で現れました。現れたのは、1人の女性とサラマンダーです」
「サラマンダーか!また第3層の魔物だな…」
「陽炎のようなものが発生し、そのまま女性とサラマンダーの姿となりました。
女性の言葉によると、やはり意図的に転移魔法によって魔物を移動させているようです。
どうやらその女性は人間の魔道師で、魔物を操っているわけではないようです。
自分の移動に巻き込む形で魔物を転移させているようです」
「やはり人為的なものだったか…その女の目的はなんなんだ?」
「詳しいことはわかりませんが、魔物の転移は実験の一部のようです。
いずれ王都から、この件に関する指示が下されると思いますが、それまでは内密に願います」
コンガスが苦笑しながら、応える。
「やはりお前たちも唯の冒険者ではないようだな。
わかった。王都からの指示を待とう。情報の提供に感謝する」
「情報の提供の代わりといってはなんですが、1つお願いがあります」
アマンの言葉にコンガスは少し驚いた表情を浮かべる。
「お前らにしては珍しいことを言うな。なんだ、言ってみろ」
「これは絶対に秘密にしてほしいことです。よろしいでしょうか?」
「…内容にもよるが、善処しよう」
「実は、私たちの仲間になったエイミーは人間ではありません。
おそらくギルドカードも偽造だったと思います。
ただ、本人が造ったわけではなく命じられて使用していたようなんです」
「ちょ…ちょっと待ってくれ。何を言っているんだ…」
「今後、ギルドカードを更新する際の判定で、種族が表示されてしまうと思います。
私たちはアーリンさんの下でしか手続きをしないようにします。
ですので、どのような表示が出ても決して口外せずにおいて欲しいのです」
コンガスの強面の顔に困惑の表情が浮かぶ。
「ギルドカードの偽造なんて、到底できることじゃないんだがな…
…まあ、『王都』がバックにいるお前たちが保証人だからな。
エイミーに害意はないことは信じよう。
わかった。この件は口外しないことを誓う。アーリンにもそうさせよう」
「ありがとうござます!」
「その代わり、また何か分かったら情報提供を頼んだぞ」
「わかりました」
3人は、ギルド長の執務室を後にするとアーリンの下に向かう。
「アマン様。サロス様。手続きが完了しました。
冒険者カードをご確認ください」
「やっぱりステータスに変化なしか」
サロスのぼやきに、アーリンが微笑む。
「まだまだお2人の実力にランクが追いついていないということですね。
でも、迷宮にはどんな危険があるかわかりません。
お2人といえども、油断は禁物ですよ!」
「わかった。いつもありがとうな、アーリン」
サロスの素直な返事に、アーリンは満面の笑みで返した。
冒険者ギルドを出ると町は夜の帳が下りていた。
3人は常宿の『夕暮れの子山羊亭』へと向かった。
いつものように2部屋用意してもらうと、食堂で夕食をとる。
「で、おじさんの依頼はどうするんだ?」
「ええ。それについて少し考えたのですが、商業都市トリスタンへ向かおうと思います」
「トリスタンか。なるほどな。じゃあ、しばらく冒険者稼業はお預けだな」
「そうなりますね。エイミー、私たちはしばらくこの町を離れます。
あなたはどうしますか?イボスで迷宮に挑戦していても構いませんが?」
「いえ。私はアマン様とご一緒させていただきたいと思います」
その真っ直ぐな言葉に、アマンの顔が赤くなる。
「わ、わかりました。ご面倒をお掛けしますが、よろしくお願いします」
エイミーは、満面の笑みでそれに応えた。




