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第16話 仮初(かりそめ)の命

翌朝、アマンとサロスは海岸近くまで馬車で乗りつけた。


しかし、アマンの言葉通り岩場が入り組んでいるため、そこから先は徒歩で向かうことにする。


アマンは、エイミーを抱きかかえながら目的地へ向かうことにした。



しばらく歩いているとアマンが立ち止まる。


「この洞窟のようですね。位置や形など、聞いていた通りです」


サロスは頷くと、洞窟へと入っていった。


アマンもその後に続く。



洞窟は、それなりの大きさではあったが分岐もなく、無事一番奥の突き当りまで辿り着いた。


「何もないな」


サロスが、そう呟くとアマンがサロスにエイミーの身体を預ける。


そのまま奥の岩肌を調べていたアマンだが、何かを感じたのか動きを止める。


どうやらアマンは、限界まで魔力を高めているようだ。



「ディスペル《解呪》」



アマンが岩肌に向かって解呪の魔法を唱えた。


すると、岩肌に見えていた箇所が、まるで王城のような格式高い石造りの壁に変わる。


目の前には、見事な装飾が施された扉も現れている。



疲れた様子を見せるアマンであったが、黙ってそのまま扉を調べる。


調べ終わったところで、アマンが再度魔法を唱えた。



「アンロック《開錠》」



扉も無事開き、中へ入るアマンとサロス。



扉の奥は、下へ伸びる階段になっていた。


まっすぐ伸びた階段は、あまりの長さに魔法の明かりでは終着点が見えない。


階段の左手は先ほどと同様、一面石造りの壁となっている。


右手はというと切り立った崖となっており、その底はやはり見えない。



2人はアマンの作り出した魔法の明かりを頼りに階段を慎重に降りていく。


エイミーを抱えたアマンは、特に慎重に階段を降りていった。



長い長い階段を降りきると、そこはビーチのような砂浜になっていた。


そして、2人の目の前には大きな湖のようなものが広がっていた。


磯の香りがただよっているので、海とつながっているようだ。


海水の湖の向こうに小島と建物が見える。



「あの島に渡るのか?」


サロスが、そう尋ねた。



刹那、2人の目の前に巨大な生き物が現れる。



「汝ら、我が住処に何の用だ」


アマンから話を聞いてはいたが、突然目の前に古竜エルダードラゴンが現れ、流石のサロスも青い顔をしている。


アマンも青い顔をしているが、それでも声を上げる。



「水竜ブライトよ。私はアマンと申します。あなたの盟友であるハルファスの息子です」


「おお、ハルファスの子か。確かに魔力の匂いが似ているな」


サファイアのような美しくも危険な青い瞳がアマンを見つめる。


「我が呪縛を解いた草原妖精グラスランナーの面影もあるな」


洞窟内に、グッグッグッという重い音がする。ブライトの笑い声だ。



アマンは、古代魔法王国を生きた古竜エルダードラゴンの知識を頼りに来たのだった。


そして、それは間違いではなかったことがすぐに分かった。



「汝も、父と同様に興味深いな。随分と珍しいものを抱いているではないか」


「この娘のことをご存知なのですか?」


アマンが勢いこんで問う。



「その個体自体は知らんが、古代魔法王国で見かけた魔力人形マジックドールであろう?」


「…魔力人形マジックドール


得られた答えにアマンは少なからずショックを受けていた。



ブライトは言葉を続ける。


「見たところ、隷属契約が切れて動力となる魔力が供給されてないようだな」


古竜エルダードラゴンのつぶやきに、迷宮で謎の女性が言い放った言葉がアマンの脳裏に蘇った。


あの時、エイミーとの隷属契約と魔力の供給を打ち切ったのだろう。



「どうすれば…どうすれば、また活動できますか?」


アマンの問いに、サロスは驚いた。


「人形と知った上で、また生活を共にしていくのか?」


そんなサロスにアマンが弱弱しく微笑みながら答える。



「ええ。人形である可能性は、ここに来るまでにも考えていました。


それでも…それでも、私にとってエイミーはエイミーなんです」


「そうか…そうだよな。俺たちは確かに3人で冒険をしていたんだ。


エイミーは、確かにエイミーだ」


「…ありがとう、サロス」



「なにやら、汝はその魔力人形マジックドールに思い入れがあるようだな。


ならば、汝が新たに主として隷属契約を結び、魔力の供給を行えば良かろう」


「ブライトよ。どのようにすれば、契約と魔力の供給ができるのでしょうか?」


「隷属契約を結べば、自然と魔力は主となった者から供給される。


契約の術式は…丁度、ここの宝物庫にその古文書があったのだがな。


ハルファスが持って行ったので、今はない」


「父上の私物コレクションに…」


「こればかりは、しょうがない。王都に一旦戻って、父上たちに頭を下げよう」


サロスが諦め顔で、そう言う。


「…そうですね」


申し訳なさそうな顔しているアマンにブライトが声をかける。


「うむ。その必要はないと思うぞ」


「どういうことでしょうか?」


「まあ、いまに分かる」


そう言うと、ブライトはニヤリと笑った。



古竜エルダードラゴンの笑顔など、普通であれば恐怖の対象でしかない。


しかし、アマンは不思議と優しさと愛嬌を感じていた。



ブライトに礼を言って、再び洞窟の入り口へ戻るアマンとサロス。


そのまま、馬車に乗ってシズン村へと向かった。


すると、途中でアマンたちの乗った場所の上空を旋回している鳥をサロスが見つける。



「なんだ?あの鳥?さっきから、ずっと俺たちの上を旋回しているぞ?」


サロスの言葉に、アマンが荷台から顔を出す。


すると、旋回していた鳥がゆっくりと降下してきた。



荷台に留まった鳥は、鷹であった。


不思議なことにアマンの顔をじっと見つめている。


「ルクバートではないですか!」


その言葉を聞くと鷹はみるみると姿を変え、いかにも執事といった身なりの中年男性となった。



「ご無沙汰をしております、坊ちゃま」


細身の執事…ルクバートは、そう声をかけた。


「ええ、久しぶりですね。でも、そろそろ坊ちゃんは辞めていただけませんかね…」



その言葉に、サロスが笑いを堪える。


「坊ちゃまに、ご主人様よりお預かりしたものをお届けに参りました」


アマンの静かな抗議をスルーすると、ルクバートは1冊の本を懐から取り出した。


「これは?」


「古文書のようです。ご主人様は渡せば分かるとだけ」


中を開いて少し内容を確かめてみるアマン。


すると、突然声を上げる。


「これは隷属契約に関する古文書ではないですか!?なぜ、これを父上が?」


「ご主人様にブライト様より連絡が入ったようでした。


私には、大至急坊ちゃまにお渡しするようにとだけ。


おそらく海からシズン村の間の街道か、シズン村にいるだろうとのことでしたので、急ぎ参った次第でございます」



アマンは、古竜エルダードラゴンが最後に見せた笑顔の謎が解けたと同時に感謝の念を送った。


「わざわざ、ご苦労様でした。父上にもお礼を申し伝えてください」


「かしこまりました。それでは、これにて」


ルクバートは、再び鷹に姿を変えると上空へと舞い上がっていった。


1度だけ場所の上空を旋回すると、そのまま王都の方角へと飛び去っていく。



「おい、アマン。今の執事は、一体何者だ?」


「サロスは会った事がありませんでしたね。あれは父上の使い魔で、ルクバートといいます。


炎の精霊王イフリートを開放した際に得た財宝の中に使い魔に関する古文書があったそうです。


父上がその魔法を使用し、使い魔にしたのがルクバートです。


普段は王都にある屋敷の執事をさせています」


「俺も他人のことは言えないが、お前の父上も本当に規格外だよな」


「ええ、私たちが父上たちに追いつけるようになるのは、いつになるのでしょうね」


2人で苦笑いをしながら、頷きあう。

第15話で壮絶にネタバレしておりましたが、水竜ブライトの再登場です。


意外にもこのキャラを気に入っていてくださったとのお便りが多かったので、今作にも出ていただきました。

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