第15話 人形
自分の名を叫ぶアマンの声にエイミーが反応した。
何かに抗うようにしながらも、自ら右足の甲を剣で地面に縫い付けた。
「エイミー!」
それを見たアマンの叫びが悲鳴に近くなる。
「あなた、何を熱くなってるの?見てみなさい。
血なんか出てないでしょ?当然よ、ただの人形なんだから」
確かにエイミーの足を剣が貫いているにも関わらず、血は出ていない。
これまでエイミーが傷を負うところを見ていなかったアマンは、2つの意味で動揺していた。
エイミーが深手を負ったことに動揺し、あるべき出血がないことに更に動揺していた。
「はぁ…もういいわ!そんなに嫌なら、あなたなんかいらないわ。
ただの人形に戻って、朽ち果てなさい!
…サラマンダーも倒されてしまったようだし、もう用はないわ」
目の端でサロスがサラマンダーにとどめを刺すのを確認した女性は、すばやく呪文の詠唱を終える。
再び陽炎のようになった身体は、いつの間にか消え去っていた。
アマンがエイミーに駆け寄る。
エイミーを襲っていた強制力は消えたようで、自分で剣を足から引き抜いていた。
アマンがエイミーの下に辿り着くと、エイミーが力なく倒れる。
なんとか地面に倒れるまえに、エイミーの身体をアマンが受け止める。
サラマンダーの討伐部位である牙をとってきたサロスもアマンの下へやってきた。
「一体、どうなってるんだ?」
「私にもわかりません。しかし、エイミーに回復魔法をお願いします」
「わかった」
サロスがエイミーに回復魔法をかける。
幸い回復魔法が効果を表し、エイミーの傷ついた足は修復された。
「出血はなかったが…傷はふさがったようだな」
「ええ、ありがとうございます」
「しかし、あの傷口はおかしいだろ…」
「あの女性がエイミーのことを人形だと言っていましたが…」
「本物の人形が俺たちと一緒に生活できるのか?」
サロスの問いにアマンが考え込む。
「どうでしょうか…傷口を見てしまっては一概に否定できません…
古代魔法王国の技術であれば、あるいは可能なのかもしれませんが…」
「アーティファクトの類ということか…」
2人としては信じたくない可能性である。
しかし、エイミーに起き上がる気配はない。
精巧な人形が横たわっている。
そのようにも見えることが、2人を不安にさせていた。
「あの女になにかされたんだろうか?」
「わかりません…しかし、その可能性が高いですね…」
「息もしていない…だが、死んでいるようにも見えない…
信じたくはないが…」
サロスの言葉の意味を把握しながらも、アマンは返答をしない。
ただ、じっと腕の中のエイミーを見つめている。
「ともかく、一旦宿に戻ろう」
サロスの言葉に頷くアマン。
そして、抱きかかえるようにしてエイミーを連れて行く。
宿に戻り、エイミーの部屋のベッドに身体を寝かせると、2人は自分たちの部屋に戻る。
「どうする、アマン?」
サロスの問いに、苦しそうに悩むアマン。
アマンの言葉をサロスは、じっと待った。
しばらくして、ようやくアマンが口を開く。
「現段階では、エイミーに起こっていることを説明するだけのヒントが足りません。
…信じたくはありませんが、アーティファクトである可能性も確かにあります。
しかし、我々の知らない魔法や薬によるものである可能性も残されています。
どちらにせよ、古代魔法王国の技術や魔法の詳しい情報が欲しいと思っています」
「王都に戻るのか?」
「いえ、王都でも人形や仮死に関する研究は行われていません。
現存する古文書にその類のものがないからです。
…もしかしたら父上ならお分かりになるかもしれませんが…」
「どうする?他に当てはあるのか?」
「…あるにはあるのですが、危険が伴います。
それでも一緒に来てくれますか?」
「何を言ってるんだ!当たり前だろう!」
「サロス…ありがとうございます」
アマンが少し涙目になりながら、サロスに礼を言う。
照れたサロスが、アマンの背中を少し強く叩きながら言った。
「なら、話は決まった。今日はもう遅い。明日、早速そこへ向かおう」
「はい!」
翌朝、まだ太陽が上がり切らないうちから2人は行動を開始した。
宿屋から馬車を借りると、寝具に寝かせたエイミーを荷台に積む。
アマンも、エイミーの傍にいるため荷台に乗り込む。
御者はサロスが勤めた。
アマンたちを乗せた馬車は、イボスから南を目指して街道を走っていく。
途中、野営を挟みながらも2日目の夕方には、大陸の南西端にあるシズンという村に着いた。
アマンたちは、宿屋を見つけると2部屋を借りる。
片方の部屋にエイミーを寝かせると、2人はもう片方の部屋で休むことにする。
ベッドに横になりながら、サロスが問う。
「目的の場所は、ここから近いのか?」
「はい、この近くのはずです」
同じく就寝の準備をしていたアマンが応える。
「潮の香りがしてるから、海が近いのか?」
「ええ、この村から少し行ったところに海岸があります。
その海岸の岩場の辺りは少々入り組んでいるのですが、洞窟がいくつか点在しています。
その洞窟のうちの1つが目的地です」
「そうか。答えが見つかるといいな」
「…ええ。良い答えが見つかるといいのですが」
そう言葉を交わして、2人は眠りに着いた。




