第14話 転移
オーガは人型の魔物で、第2階層で最も強力な討伐対象である。
オーガの角は低級回復薬の材料になることから、その収集が依頼となることがある。
冒険者ランクDになったばかり、またはランクDを目指す者たちが良く受ける依頼である。
さっそくアーリンへ依頼を受ける手続きをしてもらう。
「オーガの角の収集ですね。かしこまりました。お手続きしますので少々お待ちください」
「ああ、よろしく頼む」
「どちらにせよ、今日はもう遅いので明日向かいますので、急がなくて結構ですよ」
2人の言葉にアーリンは笑顔で応え、奥に向かう。
「あれだけ第2階層で魔物を倒したのに、まだオーガには出会ってないな」
「そうですね。個体数が意外と少ないのかもしれませんね」
そんな会話をしていると、手続きを終えたアーリンが戻ってきた。
「手続きは完了しました。では、明日も気をつけて行ってくださいね」
翌日、朝から迷宮に潜っていた3人だが、昼近くになってもオーガに遭遇することができなかった。
「特定の魔物を狙うと、なかなか出会わないものだな」
サロスのぼやきにアマンが応える。
「迷宮は広いですからね。
時間はかかりますが、こればかりはこの階層をくまなく探すしかないですね」
うんざり顔のサロスとは対照的に、今日もエイミーに感情の起伏はない。
ただ、アマンの後ろにくっついて歩くだけである。
そんな姿を時折見やり、サロスは密かにニヤニヤしているのであった。
オーガがなかなか見つからない苛立ちを紛らわせようと、サロスが冷やかしの言葉を言おうとした。
その時、アマンが小声で2人に声をかける。
「2足歩行の魔物が数匹、こちらに向かってきます。
もしかしたら、オーガかもしれませんね。あの曲がり角から出てきたところを狙いましょう」
その言葉に、サロスはいいかけた台詞を飲み込み、臨戦態勢をとる。
まもなくして、アマンの警告通りに曲がり角から3匹の魔物が現れた。
ようやく待望だったオーガの出現である。
サロスは、ニヤリと笑うと一気にオーガへと襲い掛かる。
エイミーもそれに続き、アマンは火球の魔法を放った。
完全に奇襲を受けたオーガたち。
1匹は、アマンの放った火球をまともに受けて、上半身が炎上する。
1匹は、サロスの横薙ぎの一刀で、上半身と下半身が離れ離れになる。
最後の1匹は、エイミーの素早い斬撃で、身体を数箇所に切り分けられた。
一瞬でオーガたちを葬ったアマンたち。
角の回収はアマンとエイミーが行った。
依頼達成にホッと一息ついた…そんな時だった。
アマンたちから少し離れた場所で、淡い陽炎が発生した。
いち早く気づいたアマンが警告の声を発する。
「サロス、エイミー。なにかおかしな物が現れています!」
アマンの声に2人も、段々と濃くなっていく陽炎の方を見る。
陽炎の存在に気づいたエイミーに驚愕の表情が浮かんだ。
しかし、アマンとサロスは陽炎を警戒しており、エイミーの変化に気づいていなかった。
陽炎は、やがて物体の形をとり始め、最後には1人の女性と1匹の魔物となった。
「サラマンダーか!」
第3階層にいるはずの魔物が出現したことに驚き、サロスが思わず叫んだ。
アマンはサラマンダー自身よりも女性に警戒の目を向けていた。
目の前で起きたのが転移魔法による現象だと理解しているからだ。
女性は、アマンたちを見つけると残忍な笑いを浮かべた。
「今日はあなたたちが獲物になるようね」
そう言って、再び転移魔法を詠唱しようとしたが、エイミーの姿を見つけ中断する。
「エイミー!あなた、どこにいたの!?
…まあ、いいわ。これで護衛役も戻ったことだし、さっさと退散するわよ」
女性がエイミーに向かってそう告げると、エイミーは何かに逆らうように身体を震わせていた。
そして、力を振り絞って首を横に振る。
「はぁ!?ただの人形のくせに、主の私の言葉になに逆らってるの!?
早くしなさい!サラマンダーが襲ってくるでしょ!」
苛立たしげにエイミーに言葉を投げかける女性。
その女性に対して、アマンが声を上げる。
「エイミーは、我々の仲間です!人形だなんて、失礼なことを言わないでいただきたい!」
アマンの言葉に、女性は腹をかかえて笑い出す。
「仲間?あなた、何言ってんの?それは私の魔力で動く人形よ?
他人の物を勝手に仲間とか…笑わせないでよね」
女性の言葉に絶句するアマン。
一方、サロスは女性を無視して、サラマンダーに突っ込んでいった。
「もう一度、命じるわ。エイミー。私の元に戻りなさい」
その言葉を聞いたエイミーは、全力で抗うように身体を震わせるが、足は一歩一歩と進んでいく。
「エイミー!」
アマンの叫びが、迷宮に木霊した。
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