第12話 宴
翌日、久しぶりにゆっくりとした時間を過ごしたアマンとサロス。
アマンは読書を楽しみ、サロスは普段どおり身体を動かしていた。
小さな町の宿屋にしては、手の込んだ昼食に舌鼓を打ち、食後の紅茶を楽しんでいた。
アマンの隣には、エイミーがいつも通り座っており、アマンも上機嫌であった。
そろそろ宿屋の食堂から部屋へと戻ろうかという時、
ギルドからの使いが訪れた。
「アマン様、サロス様、エイミー様。
町長がお呼びです。お屋敷までご来訪いただけますでしょうか」
「わかりました」
すぐに支度を整えて、町長の屋敷へと向かう3人。
屋敷に辿り着くと、玄関まで町長ギスカーが3人を出迎えるため、待ち構えていた。
「わざわざお出迎えいただき、ありがとうございます」
アマンの言葉に、ギスカーが首を横に振る。
「今回は、君たちに多大な恩を受けた。
この位のことは、町を代表する者として当然のことだ」
「その口ぶりだと、討伐の確認は取れたってことだな?」
精悍な笑みを浮かべながら、サロスが問う。
「ああ、君たちの言っていた通りだった。
こんなところでもなんだ。執務室で話そう」
執務室に通されると、昨日と同様、紅茶が運ばれてくる。
メイドが退室したのを見計らって、ギスカーが口を開く。
「改めて感謝の言葉を述べさせてもらおう。
今回は、想像以上に大規模な盗賊団の討伐を行ってもらった。
かの盗賊団は、町の死活問題にかかわる存在だったと改めて確認できた。
エインの町を代表して最大限の感謝を贈らせて貰う」
そう言って、深々と頭を下げるギスカー。
「君たちが持ってきた頭領とされる男もCランクの元冒険者だったな。
調べたところ、手下の中にもDとEランクの元冒険者が多く確認されている。
まともに討伐隊を組んだとしても、相当な犠牲が出たことだろう。
本当に感謝している」
再び頭を下げたギスカーが3人を1人づつ見て、最後に言った。
「ありがとう!」
ギスカーの丁寧な謝辞を受け、なんとなく照れてしまうアマンとサロス。
エイミーは、特にこれといった反応はなかったが。
「私たちは冒険者です。依頼を受けて報酬を受ける存在です。
だから、そんなに気を遣わないでください」
照れながらも、アマンはそうギスカーに告げた。
「いや、盗賊団の規模を知って、誰にも依頼を受けてもらえなかった可能性だってある。
冒険者も報酬より自分たちの命のほうが大事だからな。
だから、報酬と感謝は別物だと私は考えている。
そこでだ。小さな町ではあるが、今夜はお礼の宴を町で行いたい。
是非、そこに参加してくれないか?もちろん、今夜の宿泊代は町が持つ」
なんだか大事になってしまい、戸惑うアマンとサロスだが断る理由もない。
2人で顔を見合わせ頷くと、ギスカーに告げる。
「わかりました。お心遣い、ありがとうございます。
是非、参加させていただきます」
アマンの返答にギスカーが相好を崩す。
「是非、そうしてくれ。町の者皆で心からもてなそう」
3人の返答を得た町長の指示で、エインの町中が宴の準備で活気づく。
アマンたちは、準備が整うまで町長の屋敷にある応接室で歓待されていた。
日も暮れて帳が下りると、宴の準備が整ったという知らせが町長に届く。
応接室に訪れたギスカーが笑顔で3人に言う。
「さあ、今夜は存分に楽しんでくれ」
屋敷を出ると、町はさながら祭りの様相を呈していた。
屋台まで出ているので、宴というよりもやはり祝いの祭りなのだろう。
町長の屋敷の前に作られた席に、町長とともに3人が座る。
すると、町中から歓声が上がり、祭りが始まった。
3人の下には、次から次へと料理と酒が運ばれてくる。
アマンとサロスは、運ばれてくるものに舌鼓を打ちながら、町を眺める。
町のいたるところで、乾杯の声や笑い声、歌声、踊りの調べが上がる。
そんな喜びの喧騒を眺めながら、アマンとサロスは幸せな時間を過ごしていた。
元々、王族と大貴族の子息である2人は宴に慣れている。
しかし、この夜の宴は宮中の宴とは違う。
町中の民の喜びを直に感じられたこの日の時間は、2人にとって特別なものとなった。
夜も更けたところで、3人は宿へと戻った。
しかし、町の喧騒は収まることはなく、宴は朝まで続くのであった。
一夜明けて、エインの町を旅立つことにした3人。
街中には、道で寝ている者や昨夜の騒ぎの跡がまだ残っていた。
その光景を眺め、冒険者としての喜びを感じるアマンとサロスだった。
町の入り口に向かうと、そこにはギスカーの姿があった。
「わざわざお見送りいただかなくても」
アマンの言葉に笑顔で応えるギスカー。
「そうはいかん。我らの町の英雄だからな。
きちんと見送らせてもらう。また近くを通ったらエインへ来てくれ。
君たちならば、いつでも歓迎する」
ギスカーやメイドたちに見送られながら、3人はエインを後にする。
アマンは温かい気持ちに包まれながら、イボスの町へと歩いていくのであった。
次回の更新は11/27を予定しています。
これからもご愛読いただきますよう、お願い致します。




