第11話 討伐
晴れた天気のもと、陽気な鼻歌を口ずさみながら見張りにあたっていた男が、驚愕の声をあげる。
突然、目の前で爆音と共に防壁が破壊されたのだ。
反射的に周りを見渡すが、討伐隊らしき姿は見えない。
爆音に驚いた他の仲間たちが、表に出てきて騒ぎになっている。
何が起こっているのか理解できないで居ると、一瞬衝撃が走り、男は自分の腹部に大きな穴が開いているのに気づいた。
それが男が生涯の終わりに見た光景であった。
まだ事態を把握できずに慌てふためく盗賊たちをサロスとエイミーが次々と斬り捨てていく。
侵入者がいるということも、まだ把握できていない状態である。
その間にも、棒立ちになっている盗賊たちは、サロスとエイミーの餌食となっていく。
見張りの男が、警告の声を上げる暇もなくアマンの氷槍魔法で倒されたことも、この状態の原因となっている。
盗賊団が侵入者に対応し始めたのは、すでに25人…半数以上の人間が倒されてからだった。
残った15人の盗賊は、侵入者が2人だけと気づき、驚きながらもその2人を取り囲んだ。
「おまえら、たった2人で攻め込んできやがって…生きて返れると思うなよ」
盗賊団のリーダーらしき男が、怒気を込めた声を放つ。
手に持った大きな戦斧をかざしながら、仲間に指示を出す。
「お前たち、相手はたかだか2人だ。奇襲でだいぶやられたが、思う存分いたぶって仇をとってやれ!」
「おう!」と盗賊たちが怒りと嘲りの目で、サロスとエイミーを見る。
しかし、彼らはこの後すぐに、「たかだか」2人ではないことを身をもって知ることとなる。
血気に盛った者たちがサロスとエイミー、それぞれに3人づつ襲い掛かった。
サロスは、襲ってくる3本の刃を落ち着いて跳ね返し、3本とも宙に舞わせる。
そのまま、なにが起こったかわからないという表情の3人を一瞬で切り伏せる。
エイミーは、細かなステップを踏みながら、振るわれる刃を避ける。
さながら舞を踊るかの如く避ける姿は危険な美しさをもっていた。
振るわれる刃を避けながら、エイミーも1人、そしてまた1人と倒していく。
2人の強さを目の当たりにしたリーダーが叫ぶ。
「おい、娘のほうに全員で一斉にかかれ!」
その声を合図に8人の男たちがエイミーのほうへ走り出す。
が、その背中を氷の槍が貫く。
氷の槍から逃れた3人もエイミーによって、1人、そしてまた1人と斬り殺されていった。
その間に、サロスはリーダーの元へと突っ込んでいた。
サロスが肉薄し、逃げるタイミングを失った男は戦斧を持ち直す。
しかし、その顔には先ほどまでの覇気はない。
「おまえが、こいつらの頭領か?」
サロスの問いに男が応える。
「あ…ああ、そうだ。でも、こいつらは勝手についてきただけなんだ。
俺は元々冒険者なんだ。好きでこんなことをしてたんじゃない。
なあ、あんた。頼むから、見逃してくれないか…?
こいつらが集めた金品は好きにしてもらっていい!
俺も田舎に帰って、畑を耕すから…」
そんなことを言い出した男に、目を細めてサロスが問う。
「商人たちがそう命乞いしたときに、おまえらはどうしたんだ?」
そんなサロスの様子に、男は態度を変えた。
「ちっ!若造がっ!大人しく言うことを聞けば、苦しまずに殺してやったものを。
いいだろう、相手になってやる。
言っておくが、俺が冒険者だったってえのは本当さ。
そのときの冒険者ランクはC。後悔しても遅いぜ…!?」
盗賊の言葉に最後まで付き合う必要もないと、無造作に近づいたサロスが一刀で男の首を刎ねた。
「これでランクCかね?なんとかランクを上げたけど自分の限界を知っただけじゃないのか?」
死体にそう言い捨てるサロス。
いつのまにか傍にいたアマンが、その死体を調べる。
「何してるんだ、アマン?」
「この男の言っていたことが本当であれば、冒険者カードを持っているかもしれません。
後でこの場所を調べてもらえば良いのですが、とりあえず討伐報告するのに証拠がいるかなと思いまして」
そう言いながら、男の服から冒険者カードを見つけ出した。
「本当にランクCだったようですね。
まあ、レベルは31なのでサロスの言うようにギリギリランクアップしたのでしょう」
「死体は、エインの者たちに処分させればいいよな?」
「そうですね。下手に火を使って森林火災を起こしたらいけませんし」
「じゃあ、これで一件落着だな。さっさと町へ戻ろう」
サロスが剣を鞘にしまいながら、来た道へと歩き出す。
アマンもエイミーも異議はないので、黙って後を追う。
日が暮れる前にエインの町へと戻った3人は、まず町長のところへ向かう。
執務室へ案内された3人に、ギスカーが問いかける。
「どうした?盗賊たちの居場所は見つかったか?」
「ええ、盗賊たちの拠点を見つけました。
思ったよりも規模が大きく40人ほどの盗賊団です。
割としっかりした砦も築いていました」
「なんだって!?それは大変だ!
あんたたちでも、それは手に余るだろう。
至急、イボスに応援を頼むから、宿屋で待っていてくれ」
青い顔をしながらも、そう指示をするギスカー。
「あ、いえ。その必要はありません」
「何を言っているんだ。勇気と蛮勇を履き違えてはいかんぞ!」
「もう、終わったんだよ」
サロスの言葉が理解できずに、困惑の表情になるギスカー。
「彼の言うとおり、依頼は完了しました。
地図を書きますので、明日にでも現地をご確認ください。
ちなみに、証拠として頭領だといっていた男がもっていたギルドカードを持ってきました」
アマンから手渡されたギルドカードを不思議そうな顔で見つめるギスカー。
「依頼完了?頭領のギルドカード?
な…冒険者ランクC!?こんなやつが頭領なのか!
やはり大至急応援を呼ばねば!」
まだ事態を理解できないギスカーは、顔を赤くしたり青くしたりしている。
「あの…ですから、盗賊団の討伐は完了致しましたので…」
「少し落ち着いたら、どうだ?茶でも飲んで一息つけ」
誰が館の主人かわからなくなるようなことをサロスが言う。
「そうか、茶か。そうだな、客人に茶も出さないでいたとは。
おい、紅茶を人数分用意してくれ」
変なところは切り替えが早いなと、アマンは感心してギスカーを見ていた。
紅茶が運ばれてくると、心地よい芳香が部屋に漂う。
紅茶を口につけながら、4人で一息つく。
「落ち着いたか?」
サロスが精悍な笑顔を浮かべて、ギスカーに声をかける。
「あ…ああ。本当に討伐してくれたのか?」
「ええ、それは間違いありません。明日にでもご確認ください」
「わかった。明日一番で、偵察の者をやる。
悪いが帰る前に地図を頼む。確認できたら、宿屋へ使いの者をやるから、また明日来てくれ」
「わかりました」
ようやく落ち着いた様子のギスカーを見て安心した3人は、宿屋へと戻っていくのであった。
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