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国王陛下は傷心中  作者: 可嵐
余暇は楽しく過ごしましょう
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 それは、先生の厳しいマナー講座が終わったときのことだった。

「あっ、そうでした」

 わたしが淹れたエリムピュアラティーを楽しんでいた先生が、さも今思い出したというようにそう切り出した。今日も今日とて演技染みたその様子に、反射的に身構えてしまったのは仕方がないことだろう。

 ひそかに震え慄くわたしに、美しい微笑みを讃えた先生は用件を告げた。

「明日なんですが、講座は休みです」

「休、み?」

 こちらの世界に来て以来馴染みのなかった単語に理解が追いつかない。

「えっと、公式の行事……とかがあるんですか?」

「? いいえ?」

「では、出張でもされるんですか?」

「それならあなたを連れて行って講座を続けますよ」

「でしたら何故?」

 突然、暇を言い渡されて、戸惑い首を傾げる。そんなわたしを面白そうに目を細め、先生はまたお茶を嗜んだ。あれ以来、このお茶をとても気に入ってくれているようで穏やかな表情を見られることが多くなった。それは嬉しいことなんだけど、とりあえず今はわたしの疑問に答えて欲しい。

 お茶なんてとても手につかなくて一心に先生を見つめる。と、先生はまた優雅に茶器を置き----

「そんなに見つめないでください。休みなんですよ。普通に」

 なんて、とても愉快そうに種明かしをした。

「……休み」

「はい、休みです」

「……先生、休みあったんですね」

「当然でしょう」

 確かに。言われてみれば当然だし、そういえば陛下の部屋を警護している兵士さんにも「休みはある」と言われていた。なのに、言うだけ言って休まないこの国の中枢の人々を目にする内に、何となく諦めが芽生えてしまっていたのだ。

 でも、お休み……あるんだっ!

「良かった」

 心からそう言うと、「何故、貴女が嬉しそうなんですか?」と先生が苦笑する。「そんなに講座が嫌だったんですね」って言わないところが陛下と違うよね。……やっぱりわたしの気持ち、見えているんじゃ?

 そんな予感に少々怯えながら先生を見上げる。と、先生は少し首を傾げてわたしを見つめ返した。

「何か?」

「い、いえっ!」

 これは多分聞こえていない。バレていない。わたしの考えていることなんてっ!

 ホッとしたような。少し残念なような。いや、残念に思う必要なんてないっ! 絶対ないっ!

 わたしの乱れた心の声を聞いて今頃神官長様は笑っているのかな、なんて思いながら必死に誤魔化しの一手を探す。

 えっと、何か話題。話題。あっ、そうだっ!

「……明日っ! 先生は明日のお休みに何をされるんですか?」

 興味があったわけじゃない。だけど、他に発展させられそうな話題がなくて無理やり会話(ボール)を投げつける。と----

「姫様は?」

「えっ?」

「姫様こそ、明日は何をして過ごされるのですか?」

 同じ質問を投げ返されて怯む。

「あっ、えっと……」

 だって、考えてもみなかった。こちらに来て、だれひとり知り合いもいなくて……心安らぐ暇なんてなかった。たまのお休みは嬉しいけれど、空き時間があっても今のわたしにはほとんど自由なんてないなら、先生の講座を受けたり、陛下や天使ちゃんのために料理をしている方が平穏なのかもしれない。わたしの……心は。

「すみません」答えられずに俯くわたしに眉を下げ、先生が呟く。

「意地悪が過ぎました。本題をさっさと切り出してしまえば、そんな顔させなくて済んだのですが……姫様は近頃城内で人気なようなので、休みがあれば当てを作れるのではないか、とちょっと警戒してしまいました」

「……そんな訳ないじゃないですか。先生、本当に意地悪です」

 城内は、わたしを敵視する人ばかりなのに。

 不貞腐れて頬を膨らますわたしに、先生は「申し訳ございません」ともう一度苦笑する。そして----

「お詫びという訳ではありませんが、明日の休日、わたしと一緒に出かけませんか?」

 いつもの、あの素敵な笑顔でわたしの手を取ったのでした。




「……それで、貴女は何と答えたのですか?」

 場所は変わって神官長様の部屋。

 先ほどの事件の後、使いの方に呼び出されて彼女の部屋へと赴けば、神官長様は天使ちゃんのように瞳を輝かせ、わたしに先ほどのことを話すよう強請ったのだ。

 綺麗な瞳。花のような笑顔。

 こんなに美しい人に何かを強請られて蹴ることが出来る人がいるなら、是非会ってみたい。

「陛下も弟も、私があれこれお願いしてみても割と融通が利きませんよ?」

 あの二人っ! どういう精神構造しているんだっ!

「まぁ、あの二人は私と血の繋がりがありますからね」

 それで、貴女は?

 クスクスと笑いながら首を傾げる神官長様。

「断れる訳、ないじゃないですか……」

 一人でぼんやり過ごすよりは遥かにマシで、渡りに船、みたいな誘いだった。でも、あんな前置きなく、それこそ神官長様みたいな裏のなさそうな優しい笑顔で誘ってくれれば、こんなにそわそわしないで素直に楽しみにできたのにって思ってしまうのは----多分、負け惜しみ。陛下には割とガツンと言えるけど、わたし……先生にはすこぶる弱いのだ。

 明日、どうしたらいいんだろう……。

 先生の誘いを受けてしまった直後から、何度となく繰り返される自問。結構、本気で悩んでる。……だから、そんな楽しそうに笑わないで下さい、神官長様っ!




お久しぶりです、可嵐です。

なんかいつもこの書き出しですね。久々に下書きを読み返したら、続きが降ってきたので書きました。

可嵐、先生動かすの物凄く苦手でここまで苦労していたんですけど……今は堪らなく愛しく思えます。陛下よりも先に姫様とデートさせる話を書こうとするくらいには!

……といっても、この二人が先にデートすることになるのはプロット段階から決まっていたんですけど、デートに至るまでの経緯が大逆転! 姫様が先生を連れ出すはずだったのにっ! エリン様っ! 笑わないでくださいっ!


ではでは、少しでも楽しんでいただければ嬉しいです。

また次回っ! 早めにがんばりますっ!



可嵐

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