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国王陛下は傷心中  作者: 可嵐
こもりうたはいかがですか?
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14/17

幕間:近衛兵の最近

幕間その2です



 右、左、右。

 そのどこからも不審な気配がないことを確認して、フッと一息。と、いうか溜息。

 最近、どうもついてない。

 訓練中に怪我することが増えたし、欲しいものは十中八九目の前で完売するし、たまの恋人との逢瀬にも必ずといっていいほど邪魔が入る。先の竜討伐で出世したはいいものの、その分プライベートが壊滅的。トントン拍子、なんて夢のまた夢だ。

 まぁだからと言って仕事に支障が出るほど腑抜けてはいないけどな。近衛兵といえば、城に勤める者の中でもエリート中のエリート。国の代表をこの手で守り、支えているといっても言い過ぎではない仕事だ。

 とはいえ、溜息くらいはいいだろう、と極めて平和な廊下でもう一度溜息をついたところで、左手から人の気配と食欲を刺激する香りが漂ってくるのを感じた。

 また、あの人か……。

 最近よく見かける女性の顔を思い浮かべ、素知らぬ顔で到着を待つ。はてさて、今日は一体何を持ってきたのやら。

「お疲れ様です。陛下に御目通り願いたいのですが、よろしいでしょうか」

 ナプキンがかけられたお盆を手に現れた彼女に「お待ちください」と告げ、中にいる侍従に取り次ぐ。返答を待つ間はお互い黙っているけれど、その時の彼女はいつも緊張感を備えていた。

 おそらく、周囲の視線が気になるのだろう。まぁ、出自もはっきりしない彼女のために『騎士団長』という国にとって大きな存在が失われたのだ。陛下を始め、彼女に対して何か思う人もいるのも事実だろう。

 だが、『騎士とは人を守る存在』。ごく自然にそう考えている俺は特に気にしていない。早く、彼女もそれに気付いてくれるといいのだが……。

「あの……」

 と、空気に徹していた俺を窺うように声を掛けられてハッとする。彼女が声を掛けてくるなんて珍しいこともあるものだ。「なんでしょう」と返事をすると、彼女は恐る恐るという風に俺に問う。

「間違っていたらごめんなさい。でも、貴方は私がここを訪ねてくるといつも取り次いでくださっている方ですよね? 失礼ですけど、お休みとかないんですか?」

 そんなこと聞いてどうするんだ、と思わないでもなかったが、彼女からの初めての働きかけ。彼女への扉を閉ざしていない俺は、少し考えてから真実を告げた。

「先の戦いで人手が減ってしまったので勤務時間は増えています。が、ちゃんと休みはいただいていますよ」

 人手が減った、のあたりで彼女は悲しげに眉を顰めたが、俺から目を逸らしたりせず「それなら良かった」と微笑んだ。そして気を取り直すように背筋を伸ばすと、お偉いさんが講釈を垂れるように語る。

「貴方も陛下も先生も。この国の方は皆さん働きすぎです。たまには休まないと、いざという時に倒れますよ」

「はぁ……」

 今後、まさしく『いざ』という事態を引き起こすだろう人物からの言葉を肯定するか否定するか悩んでいると、室内で人の気配がして彼女の入室が許可された。彼女はそれに礼を言ってポケットからハンカチを取り出した。そしてお盆の上からクッキーを数枚取り出して包み込むと、「息抜きにどうぞ」と俺に差し出した。

「えっ、あのっ……」

「陛下を待たせるわけにはいかないので早く」

 確かに、入室を許可されたからには陛下を待たせる訳にはいかない。彼女の言葉に納得した俺は、ついつい「ありがとうございます」とハンカチを受け取ってしまった。

 って、いやダメだろう! 騎士として!

 手にした清潔なハンカチにその決断をすぐに後悔したけれど、当の本人は「どういたしまして」と微笑んで部屋の中へと消えている。返す術はない。

「……やってしまった」

 多分、彼女は賄賂のつもりで俺に渡した訳ではないだろう。でも、一部では「美味い」と評判の彼女の料理は十分その価値がある気がする。

「……食う、しかない、か?」

 証拠を消し去るにはそれしかない。

 右、左、右と、人通りなんてほとんどない通路の気配を先ほどよりも念入りに確認し、竜姫様(ドラゴンプリンセス)特製の香りの良いクッキーを一気に頬張る。一部で噂のその腕前は本物で売り物のように美味かったし、勤務時間を終えるまで誰にもこの悪事がばれることはなくて、めちゃめちゃラッキーじゃん俺! ----なんて考えたこともあった。けれど、結局、後で返しそびれたハンカチが恋人に見つかり、酷く叱られたことを考えると……やっぱり最近ついてないよなぁ。



 今度、竜姫様に話してみようかな。

 何となくそう思って、数日後またしても訪ねてきた彼女に最近のことを話してみた。と----

「えっ! それくらいで済んでるんですかっ!」

 なんて何故か飛びっきり喜ばれ、特製サンドウィッチまでドーンと差し入れてくれた。

 ……本当、竜姫様はよくわからない。

 取り残された通路で首を傾げながら、俺は仕方なく今日も証拠隠滅に勤しむ。……って、このサンドウィッチうまっ! さすが、竜姫様っ!

 これが賄賂じゃないのはわかっている。けれど、これだけの料理を、貰ってばかりなのは申し訳ない。だから……。

「竜姫様が困ったときは、力になってやろう」

 最近、俺はそんなことも考えている。




こんばんは、可嵐です。


書くか書かないか悩んで、幕間2話分書いてみました。1つは1章の最後に割り込み投稿しています。

読んでも読まなくても支障ない内容ですが、少しでも楽しんでいただければ幸いです。3章も頑張ります。


ではでは、読んでいただいてありがとうございました。また次回。



 可嵐

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