↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
愛の欠片は星空に舞う ~妊娠中に裏切られた私、義弟の甘い罠に落ちてしまいました~  作者: G3M


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
9/20

第9話 おじい様

 車が大学病院のエントランス脇に滑り込むと、沙紀は転がるように車から降り、エントランスを駆け抜けた。夜中を過ぎていたが、連絡を受けていた職員が無言でドアを開けた。夜の空気が冷たい。


 エレベーターに飛び乗り、六階のボタンを押す。指先がわずかに震えていた。


 扉が開くと、病室の前に親族が何人かたむろしていた。重苦しい空気が廊下に淀んでいる。母親の久美子が沙紀に気づき、急ぎ足で寄ってきた。


「早く来なさい」


 母親が病室のドアを開け、沙紀は祖父のベッドに駆け寄り、膝を折った。点滴の管が繋がれた、祖父の細い手を、両手でそっと握った。


「おじい様……!」


 祖父は薄く目を開け、弱く、しかし優しく微笑んだ。


「おじい様! おじい様!」


 ベッドの脇には祖母と叔父が無言で立っていた。病室の空気は重く、消毒薬の匂いと終わりの気配が混じっていた。


 沙紀の頭の中を、今日起きた出来事が駆け巡った——病院で知った妊娠、拓也に突き付けられた離婚届、麗奈の嘲(あざけ)るような顔。そして今、目の前に横たわる祖父。


「わたし……わたし……」


 言葉が喉に詰まった。言いたいことは山ほどあった。だが、何から口にしていいのか分からなかった。


 意識していなかった言葉が自然とこぼれ落ちた。


「わたし、赤ちゃんができたの」


 祖父はかすかに目を細め、沙紀と視線を合わせた。


「おじい様の曾孫よ。顔を見てあげて欲しいわ」


 祖父は小さくうなずいた。その仕草はひどく弱々しく、すでにこの世のものではないかのようだった。


「私、負けない。がんばるから」


 その瞬間、頰を一筋の涙が伝った。彼女は祖父の細い手を強く握りしめた。


 そばにいた医師が、沙紀の母親に目で合図を送った。母親は静かに沙紀の肩に手を置き、耳元で囁いた。


「時間よ」


「おじい様!」


 母親は沙紀を引きはがすようにして立たせた。沙紀は最後に叫ぶように言った。


「わたし、何があってもくじけないから!」


 医者が慌てた様子で祖父の容態を確認し始めた。沙紀は母親に引きずられるようにして、病室を後にした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。