↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
愛の欠片は星空に舞う ~妊娠中に裏切られた私、義弟の甘い罠に落ちてしまいました~  作者: G3M


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
8/20

第8話 署名

 床に落ちていた沙紀の携帯電話が、乾いた音を立てて鳴った。


 拓也が屈んでそれを拾い上げ、へたり込んでいる妻に差し出した。画面には母親の名前が表示されている。沙紀は震える指で通話ボタンを押し、耳に当てた。


「もしもし」


 いつもの冷静な母の声だった。


「お母さん……!」


「すぐにおじい様に会いに来なさい。あと五分以内に迎えの車がそちらへ着くはずよ」


「今、拓也と麗奈がここに……」


「いいから、早く来なさい」


 母親の声は、すでに事情の大半を知っているように落ち着いていた。沙紀は「わかった」と答え、電話を切った。


 携帯を握りしめたまま、彼女は青白い顔で拓也を見上げた。拓也は事務的な口調で告げた。


「サインしろ」


 彼はクリップで下敷きに固定した離婚届とペンを妻に突きつけた。


 沙紀は大理石の冷たい床に離婚届を置き、震える手で妻の欄に「西宮沙紀」と署名した。文字はひどく乱れたが、それでも最後まで書ききった。


「荷物はまとめて実家に送ってやる。もう二度と戻ってくるな」


 沙紀が離婚届を差し出すと、同時に激しい吐き気に襲われた。胃の内容物が大理石の床に広がり、酸っぱい匂いがダイニングルームに充満した。


 涎と涙を垂らしながら、沙紀は拓也の顔を見上げた。腹の子のことを、ようやく告げようとしたその瞬間——


「拓也、ゲロで靴下が汚れちゃったわ」


 麗奈の甲高い、甘ったれた声が明るく響いた。


 ちょうどそのとき、玄関の呼び鈴が鳴り、続いて激しいノックの音がした。運転手がドアを開けて入ってきた。


「沙紀お嬢様をお迎えに上がりました」


 拓也は素早くダイニングルームのドアを開け、玄関に向かって声をかけた。


「こっちだ」


 運転手が部屋に入るなり、拓也は短く命じた。


「ここにいる。早く連れていってくれ」


 そう言い終えると、彼は麗奈の腰を引き寄せ、沙紀の目の前で深くキスをした。まるでこの夜の最後の幕を飾るかのように。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。