第7話 指輪
「どういうこと!」
沙紀の声が、思わず尖った。
「もう、ご危篤らしいわよ」
麗奈の言葉は、まるで天気の話でもするように軽い調子だった。
「なぜあなたがそんなことまで……」
「何を言っているの。お姉様、私はあなたの腹違いの妹なのよ」
沙紀は呆然と麗奈を見つめた。頭がうまく回らない。
「だけど、おじい様とは血がつながっていないのに……」
麗奈は肩をすくめ、事もなげに説明を続けた。
「斎藤家は、あなたのお母様を長男の妻として迎え、あなたを産んだわ。でもすぐに離婚して、別の女性と結婚して私が生まれたの。けれど小泉家と斎藤家は代々付き合いのある遠い親戚同士。知らなかった?」
沙紀は小さく息を呑んだ。母親が離婚後、自分を連れて長く海外で暮らしていた頃の記憶が、ぼんやりとよぎる。帰国子女として育った彼女は、この手の親族関係に疎かった。
「もちろん知ってるわ……」
返事には力がなかった。口の中は乾ききっている。
「沙紀、早くおじい様に会いに行った方がいいぞ」
その瞬間、激しい吐き気と下腹部の痛みが沙紀を襲った。視界が揺れ、冷や汗が背中を伝う。彼女は無意識に、目で拓也に助けを求めた。
拓也が手を伸ばしかけたとき、麗奈が素早くその腕に絡みついた。
「もう、拓也を頼らないで」
麗奈は床に座り込んだ沙紀を正面から見て、微笑を浮かべた。拓也は麗奈を抱き寄せた。
「わたし、拓也に指輪をもらったの」
麗奈は左手を掲げ、大きな石のついた薬指を沙紀に見せた。
「もともと、拓也のお母様がされていたものよ。代々、西宮家の夫人に受け継がれているの」
沙紀は、自分の顔から血の気が引いていくのを感じた。視界がぼやけ、言葉が出ない。
麗奈は、床にへたり込んだ元夫人の惨めな姿を、楽しげに見下ろしていた。その瞳の奥には、勝ち残った者の満足感がはっきりと浮かんでいた。




