第4話 見合い結婚だから
「どういうこと……」
沙紀は大理石の冷たい床に尻餅をついたまま、突きつけられた離婚届を見て、震える声でつぶやいた。
やがて彼女はゆっくりと顔を上げ、夫の顔をまっすぐに見据えた。
「これは、どういうことなの」
両手で床を押さえ、体を起こそうとした。だが、激しい吐き気で立てない。
拓也は倒れた妻を、冷たい目で見下ろした。
「麗奈がオレの元に戻ってきた。それだけだ」
言葉は、あっさりと投げ出された。
「だからって、私を追い出すの? ひどいわよ」
沙紀は震える声で訴えた。
「もともと親同士が決めた見合い結婚だろう」
沙紀は胸の内で戸惑った。祖父の勧めで結婚した相手から、「見合いだから離婚も当然」と返されるとは思っていなかった。
「正式に結婚式を挙げて、三年過ごしたのよ。あなたの都合だけで離婚できるはずがないわ」
拓也の表情は動かない。事務的に、淡々と言う。
「だから離婚届を持ってきた。サインしろ」
沙紀は無言で首を振った。
「なぜだ。お互いに好きでもなかっただろう」
沙紀の唇が、かすかに歪んだ。三年の結婚で、初めて出た本音の顔だった。
「そうかしら。寝室では、ずいぶん情熱的だったと思うけど」
「ああ。お前は夜の相手としては優秀だった。何でも言うことを聞いてくれたからな」
そこへ、麗奈が甘く、毒を含んだ声を挟んだ。
「お姉さんは、夜のためのお人形だったのよ」
「……ひどいわ」
沙紀は拓也をすがるような目で見た。しかし夫の表情は冷たく、他人事のようだった。
「だが、事実だ」




