第16話 診断書
沙紀と弁護士の山田は、最上階の八階でエレベーターを降りた。正面に会議室があり、隣が社長室だった。沙紀は息を吸い、ノックの返事を待たずに扉を押した。
社長室は静まり返っていた。手前に応接セット、窓際に仕事机がある。
沙紀と山田は奥へ進み、衝立の向こうへ入った。
拓也が椅子に深く腰を下ろし、その膝の上に麗奈が座っていた。麗奈は二人が入ってきたことに気づくと、スカートの裾を直した。その仕草には、咎められていることなど微塵も感じていない様子だった。
「昼間からお盛んね」
沙紀はにこりともせずに言った。声は落ち着いていたが、指先はわずかに震えていた。
拓也は眉を寄せ、麗奈を膝から下ろした。
「何しに来た?」
「話があるの」
「何だ?」
沙紀は一瞬、唇を噛んだ。そして、腹に子のことを、ようやく口にした。
「子供ができたわ」
拓也の表情が凍りついた。
「何だって! なぜ、そんな大切なことを言わなかった!」
拓也の声には、明らかな動揺があった。
沙紀は、はっきり答えた。
「昨日、病院でわかったのよ。あなたが帰ってきたら伝えようと思って、ローストビーフを作って待っていたの」
拓也は言葉を失い、沙紀を凝視した。
沈黙を破ったのは、麗奈の甲高い声だった。
「そんなの、噓よ!」
麗奈は拓也の隣に立ち、沙紀を睨みつけた。
沙紀はバッグから診断書を取り出し、二人に見えるように掲げた。
「本当よ。診断書も持ってきたわ」




