第13話 九割
敏明は、疲れた顔で続けた。
「実は、西宮グループとの提携は、もうそれほど重要ではない。私たちはすでに別のパートナーを見つけている。ただ、そのためには少しでも多くの元手が必要なんだ。だから、拓也君からできるだけ多く慰謝料を取ってほしい」
沙紀は母と叔父を交互に見つめた。
「藤田法律事務所の山田さんを連れていくといい」
敏明がさらに言った。
「実は拓也君の車のドライブレコーダーのデータから、麗奈ちゃんとの不倫の証拠も押さえてある。もちろん興信所にも仕事をしてもらっている。だから沙紀ちゃんはかなり有利に話を進められるはずだ」
沙紀は言葉を失った。母と叔父は周到に準備をしていた。自分の離婚も、自分が何もできず母に頼ることも、計算の中にあった。
「財産を半々に分けるのではなく、九割がた取ってきなさい」
久美子が付け加えた。
沙紀はもう涙も出なかった。
久美子は薄くほほ笑んだ。
「拓也と麗華がいつ結婚するのかも確かめてきなさい。それで、西宮グループと斎藤不動産の提携がはっきりするわ」
「わかった……」
沙紀は力なく答えたが、その声には安心が混じっていた。母は厳しい。けれど、最終は自分を守ってくれる。幼い頃からの思いが、まだ残っていた。
久美子は娘の肩に手を置き、はっきりと言った。
「大丈夫よ、沙紀。母さんがついているから」
その言葉に、また涙があふれた。
談話スペースの白い照明の下で、沙紀は母の横顔を見つめた。祖父はまだ息をしている。その隣で、慰謝料と遺産と会社の話が、ここまで具体になっている。それが、家族の愛情のように感じられた。
しかし、胸の奥では別の声が囁いていた。
本当に、これでいいのだろうか? 祖父はまだ生きている。慰謝料、遺産、会社、復讐——すべてが計算され、利用されようとしている。沙紀は薄々気づきながら、その声から目を逸らした。




