第11話 相続
それまで無言で母子の会話を聞いていた叔父の敏明が、口を挟んだ。
「大変だったね」
敏明は取ってつけたような慰めのあと、すぐに本題に移った。
「ところで、通夜は明日で、葬式は明後日だ。心づもりをしておいてくれないか」
「おじい様は、まだ……」
沙紀の声が震えた。祖父がまだ生きているというのに、すでに葬儀が予定されていることに、強い違和感を覚えた。
「医者が言うには、急激に病状が悪化している。今夜が峠だそうだ。沙紀ちゃんに会えてほっとしたのだろう。今は穏やかな顔をしているよ」
沙紀は再び涙をあふれさせた。
「もう会場を押さえてあるわ」と母の久美子が続けた。彼女の声は事務的だった。
敏明は少し声を落とした。
「実は、相談したいことがある。いいかな?」
沙紀は力なく頷いた。
「親父の遺産相続のことだ」
沙紀はぼんやりと叔父と母の顔を見つめた。愛する祖父がまだ息をしているというのに、親族たちはすでに「その後」の計算を始めている。
「久美子姉さんが、親父の遺産のすべてを相続することになった」
敏明は疲れた顔を沙紀に向けると、淡々と話を続けた。
「私たちは三姉弟だ。久美子姉さんが長女、そして長男の私、そして次男の勝也。本来なら、お袋が半分を取って、その残りを姉弟で分けるはずだった。だが、それだと遺産が分散して、会社が割れるかもしれない。だから親父は、久美子姉さんに全部渡すことにした」
沙紀は驚いた顔をした。予想外の話に、頭が追いつかない。




