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第9話 生きるための拠点

「……やっぱり、傷がない」


葵は何度目か分からない確認をしていた。


昨日まで確かにあった傷。


それが、今は跡すら残っていない。


「レベルが上がったから……なのかな」


葵にはまだ確信が持てなかった。


けれど、考えていても答えは出ない。


「まあ……治ったならいいか」


葵は気持ちを切り替えた。


そして、お腹を押さえる。


「それより、お腹空いた……」


昨日集めた食料を取り出す。


食べられる草。


木の実。


キノコ。


そして、ブラックウルフの肉。


「……朝から狼のお肉かぁ」


日本にいた頃なら絶対に考えなかった朝食だ。


けれど、今の葵には貴重な食料だった。


肉を焼き、草やキノコと一緒に食べる。


「……うん。美味しい」


食事を終えると、葵は周囲を見回した。


昨日は魔物に襲われるかもしれないという恐怖で、それどころではなかった。


でも、改めて見ると――。


「ここ、結構広いんだ」


大きな木。


近くには水場。


食べられる植物もある。


そして、魔物から身を隠せそうな場所もある。


「……ここを、私の家にできないかな」


葵は少し考えた。


「毎日寝る場所を探すのも大変だし」


せっかくなら、安心して眠れる場所が欲しい。


できれば、雨が降っても大丈夫な場所。


「……よし」


葵は立ち上がった。


「まずは、拠点を作ろう」


⸻


最初に葵がしたのは、周囲の探索だった。


【検索】を使い、安全な場所を探していく。


《周囲の危険度を検索します》


しばらく歩く。


すると、大きな岩の陰に少し開けた場所を見つけた。


《危険度:低》


「ここなら良さそう」


さらに周囲を検索する。


《建築に適した樹木》


《加工に適した石材》


《燃料として使用可能》


次々と情報が表示される。


「……本当に便利だなぁ」


葵は必要な素材を集め始めた。


太い枝。


丈夫な蔓。


大きな葉。


平らな石。


そして、木の皮。


「これで屋根を作って……」


枝を組み合わせる。


蔓で固定する。


大きな葉を重ねる。


簡単なものではあるが、少しずつ形になっていく。


「……家っぽくなってきた」


もちろん、現代の家とは比べものにならない。


それでも、昨日までの「木の根元」よりは遥かにマシだ。


⸻


作業を続けていると、結愛はふと昨日のスキルを思い出した。


【保存】。


転移直前に手に入れたスキルの一つ。


「そういえば、【保存】って何ができるんだろう」


試しに、採取した木の実を一つ手に取る。


「保存」


《固有スキル【保存】を起動します》


木の実が光に包まれ――。


消えた。


「……え?」


葵は目を丸くした。


「なくなった?」


慌ててもう一度【保存】を意識する。


すると。


《保存領域を確認》


《保存物:木の実》


「……入ってる!」


目の前に半透明の一覧が表示される。


保存した木の実が一つ。


「これ……アイテムボックスみたいなもの?」


試しに取り出す。


すると、何もない空間から木の実が現れた。


「すご……」


葵は思わず声を上げた。


さらに食料を保存してみる。


草。


キノコ。


木の実。


ブラックウルフの肉。


水。


どんどん保存していく。


「これなら、食料を持ち歩くのも楽じゃん」


そして、ふと気づく。


「……これ、もしかして腐らないのかな?」


検索する。


《保存領域内の時間経過を確認》


《保存物は劣化しません》


「……」


葵は固まった。


「……めちゃくちゃ便利じゃん」


思わず笑ってしまう。


「冷蔵庫より便利かも」


しかも、保存できる量には今のところ限界が見当たらない。


「これなら、魔物のお肉もいっぱい取っておける」


葵は嬉しそうに笑った。


⸻


昼を過ぎる頃には、簡単な拠点が完成していた。


大きな木の枝を柱にして、葉と樹皮で屋根を作った小屋。


中には落ち葉を敷き詰め、その上に柔らかい草を重ねる。


「ベッドもどき……完成!」


葵はそこに腰を下ろす。


「……昨日より、ずっといい」


小さな家。


食料。


水。


火を起こせる場所。


そして【保存】。


まだまだ足りないものは多い。


でも――。


「これなら、しばらく暮らせそう」


葵は小屋の外を眺めた。


魔の森は相変わらず不気味だ。


どこか遠くから、獣の鳴き声も聞こえてくる。


「……怖いけど」


昨日とは違う。


少しだけ、この場所に慣れてきた気がする。


「私、ちゃんと生きてるんだ」


葵は小さく笑った。


そして、明日から何をするか考え始める。


もっと食料を集めよう。


もっと安全な場所を探そう。


武器も作りたい。


この森についても、もっと知りたい。


「……やること、いっぱいあるなぁ」


葵はそう呟きながら、初めて自分の作った小屋の中で眠りについた。


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