第10話 初めての探索
翌朝。
「ん……」
一ノ瀬葵は、簡素な小屋の中で目を覚ました。
昨日作ったばかりの小屋。
決して立派とは言えないけれど、雨風をしのげて、安心して眠れる。
「……おはよう、私の家」
誰もいないので、当然返事はない。
葵は一人で苦笑した。
「さて……今日は何しようかな」
昨日のうちに、食料と水はある程度確保できた。
寝る場所もある。
なら、今日は――。
「この辺を探索してみよう」
魔の森について、まだ何も知らない。
どんな植物があるのか。
どんな魔物がいるのか。
どんなものが生活に使えるのか。
知っておいた方がいいことはたくさんある。
「……あと」
葵は少し考える。
「調味料も欲しいなぁ」
昨日食べたブラックウルフの肉を思い出す。
焼いただけでも十分美味しかった。
けれど――。
「やっぱり、お塩とか欲しい」
日本にいた頃の食事を思い出すと、どうしても味気なく感じてしまう。
「醤油とか……さすがにないよね」
葵は苦笑しながら、小屋を出た。
⸻
まずは水場へ向かった。
《周囲の危険度を検索します》
《危険度:低》
「よし」
安全を確認してから水を汲む。
そして――。
「保存」
《固有スキル【保存】を起動します》
汲んだ水が保存領域へ収納される。
《保存物:水》
「これなら持ち歩けるし、何日分か確保しておけそう」
保存領域の中では時間による劣化が起こらない。
水も食料も腐らない。
「【保存】って、本当に便利だなぁ」
葵は改めて感心した。
⸻
次に向かったのは、薬草が多く生えている場所。
昨日までは「薬草」とひとまとめにしていたが、今日は少し詳しく調べてみる。
「薬草を検索」
《周囲の薬草を検索します》
すると、様々な植物が表示された。
「……こんなに種類があるんだ」
まず目についたのは、小さな青い葉をつけた植物。
《名称:アオハナ草》
《効果:擦り傷・切り傷の治癒を促進》
「昨日使った薬草とは別のやつなんだ」
葵は丁寧に採取して【保存】する。
次に見つけたのは、赤みがかった葉。
《名称:ヒノメ草》
《効果:火傷による炎症・痛みを緩和》
「火傷に効くんだ」
これも採取。
さらに白い花をつけた植物。
《名称:シロネ草》
《効果:腫れ・打撲による痛みを緩和》
「これも使えそう」
そして、淡い紫色の実をつけた植物。
《名称:ムラサキミツ草》
《効果:虫刺され・軽度の毒による症状を緩和》
「……毒にも使えるの?」
葵は少し驚いた。
「じゃあ、これも」
採取。
気づけば、葵の前には様々な薬草が並んでいた。
「擦り傷用、火傷用、打撲用……」
それぞれ用途が違う。
「ちゃんと分けて保存しておこう」
《保存物》
《アオハナ草×28》
《ヒノメ草×17》
《シロネ草×23》
《ムラサキミツ草×12》
「……結構採れた」
これだけあれば、しばらく困らなそうだ。
⸻
「さて……」
葵は再び歩き出した。
今日の目的はもう一つ。
調味料探し。
「塩……砂糖……胡椒……」
口に出しながら歩く。
すると、【検索】が反応した。
《周囲に調味料として利用可能な植物を確認》
「えっ?」
葵は足を止めた。
「あるの?」
まず表示されたのは、小さな木。
そこに、黄色い実がいくつも生っていた。
《名称:キネの実》
《果肉を乾燥させ、すり潰すことで甘味料として利用可能》
《甘味:砂糖に近い》
「砂糖の代わりになるんだ!」
葵は実を一つ採取する。
そのまま食べてみる。
「……甘い!」
砂糖ほど強烈な甘さではない。
でも、十分に甘い。
「これ、いいじゃん!」
葵は嬉しそうにキネの実を集め始めた。
「お菓子とか作れたりするかな……」
異世界に来てから初めて、少しだけ日本にいた頃の生活を思い出した。
⸻
次に探したのは塩。
検索すると、森の中にある岩場が表示された。
《名称:塩晶岩》
《表面に付着する白色結晶は食用可能》
《加工:水に溶かし、不純物を除去することで調味料として使用可能》
「……塩!」
葵は岩場へ向かった。
白い結晶を集める。
「これを綺麗にして……」
検索結果を参考にしながら加工する。
すると、小さな容器に白い粉が残った。
「……ちゃんと塩っぽい」
指先につけて舐める。
「しょっぱい!」
葵の顔がぱっと明るくなる。
「よし! 塩ゲット!」
⸻
最後は胡椒。
《香辛料として利用可能な植物を検索》
少し歩いたところに、赤黒い小さな実をつけた植物が表示された。
《名称:ピリカの実》
《乾燥後に粉末状にすることで香辛料として使用可能》
《特徴:強い辛味と芳香》
「ピリカの実……」
葵は一粒だけ採取する。
「これ、どうやって使うんだろう」
検索結果に従って乾燥させ、石ですり潰す。
「……胡椒みたいな感じかな?」
少しだけ指につけて舐める。
「――辛っ!」
「けほっ、けほっ!」
葵は涙目になりながら咳き込んだ。
「辛すぎる……!」
でも、その顔には笑みが浮かんでいた。
「……でも、これ絶対お肉に合う」
塩。
キネの実。
ピリカの実。
「これだけあれば、食事がかなり変わりそう!」
⸻
調味料と薬草を集め終えた頃には、日が沈みかけていた。
葵は小屋へ戻る。
今日集めて【保存】したものを確認する。
水。
薬草各種。
キネの実。
塩。
ピリカの実。
そして、昨日のブラックウルフの肉。
「……よし」
葵は肉を取り出す。
火を起こし、肉を焼く。
昨日までは焼いただけだった。
今日は違う。
まず塩を振る。
そして――。
「ピリカの実……ちょっとだけ」
粉末にした香辛料を振りかける。
ジュウジュウと肉が焼ける。
香ばしい匂いが辺りに広がった。
「……!」
葵のお腹が鳴る。
「いただきます」
一口。
「…………」
葵は目を見開いた。
「美味しい……!」
思わず頬が緩む。
「昨日より全然美味しい!」
魔の森に置き去りにされて、まだ二日ほど。
それでも葵は、少しずつこの場所での生活を形にしていた。
「……なんか」
肉を頬張りながら、葵は思う。
「意外と……楽しいかも」
もちろん、危険はたくさんある。
強い魔物もいる。
いつ命を落としてもおかしくない。
それでも――。
自分で食べ物を探して。
自分で家を作って。
自分で生活を便利にしていく。
それは、今まで知らなかった楽しさだった。
葵は残った肉を【保存】にしまう。
「明日は何を探そうかな」
そう呟きながら、葵は魔の森の奥を眺めた。




