第11話 暴食の力
翌日。
葵は、小屋を出て森の中を歩いていた。
「今日はどこまで行ってみようかな」
昨日までよりも、少しだけ足取りが軽い。
食料もある。
水もある。
薬草もある。
そして、簡単とはいえ自分の家までできた。
「この辺りなら、もう少し探索しても大丈夫そう」
葵は〖検索〗を発動する。
《周囲の危険度を検索します》
しばらく歩いていると、近くにいくつかの反応が表示された。
「……魔物」
葵は木の陰から様子を見る。
すると、草むらから小さな魔物が姿を現した。
「ホーンラビット……」
《危険度:低》
「これなら……」
葵は周囲を確認する。
他に魔物はいない。
「やってみよう」
ホーンラビットが葵に気づいた。
次の瞬間――。
「キュッ!」
地面を蹴り、一気に突っ込んでくる。
「――っ!」
葵は横へ飛んだ。
鋭い角が、さっきまで葵が立っていた場所を通り過ぎる。
「危なっ!」
昨日よりも、動きがよく見える。
これもブラックウルフから得た【敏捷性向上】や【夜間視力】などの影響なのかもしれない。
ホーンラビットが再び向きを変える。
「次は……!」
葵は〖検索〗を使う。
《対象:ホーンラビット》
《弱点:角の根元》
「そこだね!」
ホーンラビットが再び突っ込んでくる。
葵はギリギリまで引きつけ――。
「今!」
身体を横へずらし、すれ違いざまに金属片を振り抜いた。
「キュッ!」
ホーンラビットが地面を転がる。
葵は距離を取った。
「……」
動かない。
「……倒した?」
慎重に近づく。
ホーンラビットは、もう動かなかった。
《討伐を確認》
《経験値を獲得しました》
「……よし」
昨日のブラックウルフとの戦いとは違う。
あのときは恐怖で何も考えられなかった。
でも今回は、自分で相手を観察して、弱点を狙うことができた。
「少しずつ……慣れてきたのかな」
ふと、昨日のレベルアップを思い出す。
「そういえば……」
昨日は戦闘直後だったから、詳しく確認していなかった。
「自分のステータスって見られるのかな?」
〖検索〗を使う。
「私のステータスを検索」
《対象:一ノ瀬 葵》
《検索結果を表示します》
⸻
【名前】一ノ瀬 葵
【種族】人族
【固有職】 破壊神
【レベル】8
【体力】180
【魔力】120
【筋力】135
【敏捷】160
【耐久】110
【魔法適性】E
【スキル】
〖暴食〗〖検索〗〖保存〗〖分割〗〖破壊〗
【獲得特性】
【夜間視力】【嗅覚強化】【敏捷性向上】
⸻
「……」
葵は画面を見つめる。
「人族……」
自分は普通の人間。
少なくとも、表示上はそうなっている。
そして――。
「レベル8」
昨日のブラックウルフ一匹で、ここまで上がった。
「……やっぱり、あの狼ってかなり強かったんだ」
今さらながら実感する。
そして、能力値を見る。
「……数字は、よく分からないな」
日本にいた頃なら、ゲームのようで楽しいと思ったかもしれない。
でも今は違う。
この数字が、自分の生死に直結する。
「もっと強くならないと」
葵はステータス画面を閉じた。
そして、ふと思う。
「……〖検索〗で、スキルについても調べられるのかな?」
《検索します》
〖暴食〗
結愛は少しだけ緊張した。
《対象を摂取することで、対象の特性を獲得する》
「……やっぱり」
昨日、ブラックウルフを食べたことで、
敏捷性。嗅覚。夜間視力。
それらを得た。
「じゃあ……」
葵は考える。
足元に倒れているホーンラビットが目に入る。
「ホーンラビットも食べてみたら……どうなるんだろう?」
少し迷う。
見た目は兎に近い。
でも、魔物だ。
「……検索」
《食用:可能》
「食べられるんだ」
〖分割〗で肉や素材を分けたホーンラビットを〖保存〗入れ、小屋へ持ち帰った。
⸻
火を起こす。
昨日手に入れた塩とピリカの実を使い、ホーンラビットの肉を焼いていく。
「……いただきます」
一口食べる。
「……普通に美味しい」
兎肉に近い味だ。
少しクセはあるが、十分食べられる。
葵はそのまま食べ進める。
そして――。
《固有スキル〖暴食〗が発動しました》
「……!」
箸を止める。
《対象:ホーンラビット》
《対象の特性を取得します》
《跳躍力強化》
《動体視力強化》
《取得完了》
葵は目を丸くした。
「特性……増えた」
ブラックウルフからは、
【敏捷性向上】
【嗅覚強化】
【夜間視力】
そして今度は、
【跳躍力強化】
【動体視力強化】。
「……」
葵は考え込む。
「ってことは……」
葵は自分のステータス画面を見る。
獲得特性が増えている。
「魔物を食べれば食べるほど……」
自分の能力が増える。
「……強くなれる?」
その考えに、葵はしばらく黙り込んだ。
そして、ゆっくりと魔の森を見る。
昨日までは、ただ恐ろしい場所だった。
けれど今は――。
「……もしかして」
葵は小さく呟いた。
その可能性に気づいた瞬間。
葵は少しだけ目を輝かせた。




