第12話 暴食の検証
一ノ瀬葵は、小屋の前で昨日のことを思い返していた。
「魔物を食べると……その魔物の特性を手に入れられる」
ブラックウルフから得た、
【夜間視力】
【嗅覚強化】
【敏捷性向上】
そして、ホーンラビットから得た、
【跳躍力強化】
【動体視力強化】
どれも普通の人間にはない力だ。
「だったら……他の魔物を食べたら、どうなるんだろう?」
葵はその疑問を確かめることにした。
ただし、昨日までの経験から無茶はしない。
「危険度の低い魔物だけ」
そう決めて、金属片を握りしめる。
今の葵にとって、それが唯一の武器だった。
「よし……行こう」
⸻
森を歩き始めてしばらくすると、草むらが揺れた。
「……いた」
ホーンラビットだ。
《危険度:低》
葵は金属片を構える。
ホーンラビットがこちらへ向かってくる。
「っ!」
突進を横へ避ける。
そして、すれ違いざまに金属片を振り抜いた。
「えいっ!」
ホーンラビットが倒れる。
《討伐を確認》
《経験値を獲得しました》
「……よし」
葵は倒したホーンラビットを【保存】へ入れた。
その後も慎重に探索を続け、何匹かのホーンラビットを討伐する。
そして――。
《経験値を獲得しました》
《レベルが上昇しました》
《レベル:8 → 9》
「やった!」
葵は小さくガッツポーズをした。
「これくらいの魔物なら、五匹とか六匹くらいでレベルが上がるんだ」
もちろん、魔物によって得られる経験値は違うだろうが、少しずつ自分の成長が実感できるようになってきた。
⸻
昼頃。
葵は小屋へ戻り、保存していたホーンラビットの肉を取り出す。
「せっかくだし……美味しく食べたいよね」
昨日手に入れた塩。
キネの実から作った甘味料。
ピリカの実。
そして、森で採取した薬草やキノコ。
【検索】で調べる。
《食用可能》
《香味付けに適する》
《加熱することで風味が向上》
「これとこれを使ってみよう」
ホーンラビットの肉に塩を揉み込み、薄く切ったキノコと香りの良い薬草を添える。
さらにピリカの実を少量。
焚き火の上でじっくり焼く。
ジュウジュウと肉から脂が落ち、香ばしい匂いが広がった。
「……いい匂い」
葵のお腹が鳴る。
「いただきます!」
一口食べる。
「……美味しい!」
思わず頬が緩む。
キノコの香りと薬草の風味が肉によく合っている。
「昨日より料理っぽい!」
葵は夢中になって食べていく。
そして――。
《固有スキル【暴食】が発動しました》
《対象:ホーンラビット》
《特性を確認》
《【跳躍力強化】の重複を確認》
《【跳躍力強化】を強化します》
《【跳躍力強化Ⅱ】を獲得しました》
「……!」
葵は目を丸くする。
「強化…?」
同じ種類の魔物を食べたことで、同じ特性が強化されたようだった。
「じゃあ、いっぱい食べれば……」
葵はそこで考える。
「もっと強くできるのかな?」
⸻
午後。
葵は再び森へ向かった。
今度は別の魔物を探す。
しばらく歩くと、岩陰に小さなトカゲのような魔物がいた。
《種族:スモールリザード》
《危険度:低》
「よし……」
金属片を握る。
スモールリザードがこちらへ向かってくる。
葵は【検索】で弱点を確認する。
《弱点:腹部》
「そこ!」
魔物の攻撃を避け、身体を反転させながら金属片を叩き込む。
《討伐を確認》
「……倒せた」
以前なら魔物との戦闘だけで震えていた。
今では、相手の動きを見て戦えるようになってきた。
もちろん怖くないわけではない。
ただ、恐怖に飲み込まれなくなってきた。
⸻
スモールリザードを数匹討伐したところで、再び経験値が入る。
《経験値を獲得しました》
《レベルが上昇しました》
《レベル:9 → 10》
「また上がった!」
葵は嬉しそうに笑う。
倒したスモールリザードを保存して小屋へ持ち帰る。
⸻
今度はスモールリザードの肉を細かく切る。
キノコと一緒に炒め、塩とピリカの実で味付け。
さらにキネの実を少し加えて、甘辛い味に仕上げる。
「……なんか、照り焼きっぽい」
見た目は少し違う。
でも香りはかなり良い。
「いただきます」
ぱくっ。
「……!」
葵の顔が明るくなる。
「これ、美味しい!」
異世界に来てから、初めて食事を楽しめている気がした。
そして食事を終える頃――。
《【暴食】が発動しました》
《対象:スモールリザード》
《特性を取得します》
《【環境適応】を獲得しました》
「環境適応……」
検索してみる。
《気温・湿度・地形など、環境への適応能力を向上させます》
「これも便利そう」
さらに別のスモールリザードを食べる。
《【環境適応】の重複を確認》
《【環境適応Ⅱ】を獲得しました》
「二段階目……」
葵は嬉しそうにステータスを眺める。
しかし、三匹目を食べても――。
《【環境適応Ⅱ】に変化なし》
「あれ?」
もう一匹。
《【環境適応Ⅱ】に変化なし》
「……何でも食べれば上がるわけじゃないんだ」
どうやら、同じ特性を取り込めば必ず強化されるわけではないらしい。
そのことを、葵はまだ知らなかった。
特性にはそれぞれ成長しやすさがあり、強化されるほど次の段階へ進むために必要な量も増えていく。
⸻
夕方。
木々の上から羽音が聞こえた。
「鳥……?」
《種族:フォレストバード》
《危険度:低》
葵は慎重に近づく。
飛び回るため、ホーンラビットやスモールリザードより狙いづらい。
それでも、何度も観察する。
「……あそこ」
金属片を構える。
フォレストバードが低空を飛んだ瞬間――。
「今!」
金属片を投げる。
「当たって!」
鈍い音。
フォレストバードが地面へ落ちる。
《討伐を確認》
「やった……!」
葵は駆け寄った。
そして、さらに数匹を討伐する。
やがて――。
《経験値を獲得しました》
《レベルが上昇しました》
《レベル:10 → 11》
「また上がった!」
葵は嬉しそうに笑った。
⸻
その日の夕食。
フォレストバードの肉を使い、キノコと薬草を煮込む。
塩とピリカの実で味を整え、最後にキネの実でほんの少し甘みを加える。
「……鳥肉のスープ!」
湯気の立つ料理を前に、葵は嬉しそうに手を合わせた。
「いただきます」
一口。
「……あったかい」
魔の森で一人。
誰もいない。
それでも、自分で作った料理を食べる時間だけは少し安心できた。
そして――。
《【暴食】が発動しました》
《対象:フォレストバード》
《特性を取得します》
《【視力強化】を獲得しました》
《【平衡感覚強化】を獲得しました》
「二つも……!」
葵は驚きながら、さらにフォレストバードの肉を食べる。
《【視力強化】の重複を確認》
《【視力強化Ⅱ】を獲得しました》
「これも強化された」
しかし、その後何匹か食べても、Ⅱから先には上がらなかった。
「……なるほど」
葵は少しずつ理解していく。
魔物を食べれば、特性を手に入れられる。
同じ特性を持つ魔物を食べれば、強化されることもある。
でも――。
「無限に簡単に強くなるわけじゃないんだ」
今のところ、最も成長した特性でもⅡ。
「もっと食べ続けたら、いつかⅢとかにもなるのかな?」
それはまだ分からない。
ただ一つだけ、はっきりしたことがある。
葵は自分のステータスを確認した。
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【名前】一ノ瀬 葵
【固有職】破壊神
【種族】人族
【レベル】11
【体力】255
【魔力】165
【筋力】190
【敏捷】215
【耐久】155
【魔法適性】E
【スキル】
〖暴食〗〖検索〗〖保存〗〖分割〗〖破壊〗
【獲得特性】
【夜間視力】【嗅覚強化】【敏捷性向上】
【跳躍力強化Ⅱ】【動体視力強化】【環境適応Ⅱ】
【視力強化Ⅱ】【平衡感覚強化】
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「……レベルも上がってる」
たった数日。
それなのに、転移したばかりの頃とは比べものにならない。
葵は自分の手を握った。
「魔物を倒すと経験値がもらえる」
「食べると特性をもらえる」
「同じ特性を持つ魔物を食べれば、強化できることもある」
そして――。
「魔物を食べれば食べるほど、私は強くなれる」
葵はその事実を、ようやく理解し始めていた。
最初は恐怖の対象だった魔物。
今では、自分を成長させてくれる存在でもある。
「……でも、強い魔物はまだ怖いし」
葵は苦笑する。
「無理はしないようにしよう」
そう呟きながら、保存領域に残っている魔物の素材を眺める。




