第13話 初めての武器
一ノ瀬葵は、小屋の中に並べた素材を眺めていた。
ブラックウルフの牙。
ブラックウルフの爪。
ブラックウルフの皮。
ブラックウルフの腱。
ホーンラビットの角。
スモールリザードの皮。
フォレストバードの羽。
「……結構集まったなぁ」
これまで魔物を倒すたび、食べられる肉と一緒に【保存】してきた素材。
「食べるだけじゃなくて、これも何かに使えるのかな?」
葵は【検索】を発動した。
《魔物素材の用途を検索します》
目の前に情報が並んでいく。
《ホーンラビットの角》
《硬度:高》
《用途:矢尻・刃物》
《スモールリザードの皮》
《用途:防具・袋・鞘》
《フォレストバードの羽》
《用途:矢羽・装飾》
そして――。
《ブラックウルフの牙》
《硬度:非常に高》
《用途:刃物・矢尻》
「……武器にできるんだ」
これらはただの魔物の身体の一部ではない。
武器や防具、道具の材料として使えるらしい。
葵は今使っている金属片を見る。
転移した直後に拾った、ナイフ代わりの金属片。
「これだけで戦うのも、そろそろ怖いよね」
ブラックウルフと戦ったときは、これしかなかった。
幸い今は少し強くなった。
それでも、もっと強い魔物と戦うことになったら、この金属片だけでは心もとない。
「……武器、作ってみよう」
⸻
まずはナイフ。
葵はブラックウルフの牙を手に取った。
「これ、本当に刃物になるのかな?」
【検索】を発動する。
《ブラックウルフの牙》
《硬度:高》
《加工適性:刃物》
《推奨加工:研磨》
「研磨……」
葵は平らで硬い石を探した。
そして牙を石に擦りつける。
ゴリ……ゴリ……
「……」
ゴリ……ゴリ……
「……全然削れない」
しばらく続けてみる。
「腕、疲れた……」
葵は一度手を止めた。
「これ、本当にできるの?」
検索する。
《推奨研磨時間:長》
「長ってどれくらい!?」
思わずツッコミを入れる。
それでも諦めず、何度も牙を削っていく。
少しずつ。
本当に少しずつ。
牙の先端が鋭くなっていく。
「……!」
葵は指先で慎重に触れる。
「尖ってる」
今度は刃になる部分を薄く削っていく。
何度も形を確認しながら加工する。
「……こんな感じかな」
次に柄を作る。
丈夫な木を適当な長さに切り、中央を削って牙を差し込めるようにする。
そして、スモールリザードの皮を細く裂き、柄の周りに巻き付ける。
「これなら滑らなそう」
最後に検索。
《完成度を確認します》
《簡易ナイフとして使用可能》
「……よし!」
葵は完成したナイフを持ち上げる。
黒っぽい牙を使った、少し不格好なナイフ。
でも――。
「私が作ったんだ……」
葵は嬉しそうに笑った。
⸻
次は弓。
「遠くから攻撃できる武器も欲しい」
検索する。
《弓の材料を検索します》
《推奨素材:柔軟性のある木材》
《弦:動物の腱》
「じゃあ……」
森の中から適した木を探す。
《弓製作適性:高》
「これ!」
葵は木を切り出す。
もちろん、最初から綺麗な弓になるわけではない。
木の表面を削り、両端を細くしていく。
「……硬い」
削る。
「……疲れた」
削る。
「……まだ?」
検索する。
《推奨形状を表示します》
「最初からそれ教えてよ……」
表示された情報を参考に、少しずつ形を整える。
やがて――。
「……できた」
木をしならせると、弓らしい形になる。
次は弦。
ブラックウルフの腱を取り出す。
《強度:高》
《弓弦への加工が可能》
「これならいけそう」
腱を加工し、弓の両端にしっかりと固定する。
「……よし」
弦を引く。
ギリッ――。
「結構強い」
今まで使っていた簡単な弓とは明らかに違う。
⸻
そして矢。
「矢は……」
検索する。
《矢尻に適した素材》
《ホーンラビットの角》
「やっぱり角なんだ」
角を削り、尖った形にする。
矢柄には丈夫な枝を使う。
そして――。
「羽……」
フォレストバードの羽を取り出す。
《矢羽への加工が可能》
「これで矢が真っ直ぐ飛ぶのかな?」
羽を加工して矢の後ろに取り付ける。
一本。
二本。
三本。
最初は形がバラバラだった。
「……これ、全部違う形になってる」
検索する。
《矢羽は左右対称にすることを推奨》
「なるほど……」
作り直す。
今度はなるべく同じ形になるように加工する。
最終的に、数本の矢が完成した。
「……できた!」
⸻
葵は完成した弓を持って、小屋の外へ出た。
少し離れた木を標的にする。
「ちゃんと飛ぶかな……」
弓を構える。
矢をつがえる。
ゆっくりと引く。
ギリッ――。
「……」
狙いを定める。
「えいっ!」
ヒュッ――。
ドスッ!
矢が木に突き刺さった。
「……!」
葵は目を見開いた。
「当たった!」
もう一本。
ヒュッ!
ドスッ!
「すごい!」
三本目。
少し狙いが逸れた。
「……まあ、そこは練習だね」
それでも十分だった。
金属片を握って魔物に近づいていた頃とは違う。
今の葵には、
遠くから狙える弓と、接近戦で使える牙のナイフがある。
「これなら、もっと安全に戦える」
⸻
夕方。
葵は完成したものを並べてみた。
ブラックウルフの牙ナイフ。
ブラックウルフの腱で作った弓。
ホーンラビットの角を使った矢。
「……」
葵はそれらを眺める。
ほんの数日前まで、自分は普通の高校生だった。
武器なんて触ったこともない。
魔物の解体なんてしたこともない。
ましてや、自分で武器を作るなんて考えたことすらなかった。
「……私、結構頑張ってるよね」
誰も褒めてくれる人はいない。
だから、自分で自分を少しだけ褒める。
「うん。頑張ってる」
そして、最後に新しく作ったナイフを握った。
「これからは、もっと安全に探索できそう」
魔の森で生き残るための準備は、少しずつ整ってきている。
食料。
水。
薬草。
拠点。
そして――武器。
「明日は……もう少し遠くまで行ってみようかな」
葵は魔の森の奥を見つめた。




