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第14話 洞窟

一ノ瀬葵は、小屋の前で新しく作った武器を確認していた。


ブラックウルフの牙で作ったナイフ。


ブラックウルフの腱を使った弓。


ホーンラビットの角を加工した矢。


「……うん」


昨日まで使っていた金属片と比べれば、ずっと頼りになる。


もちろん、まだ素人が作った簡素な武器だ。


それでも、自分の身を守るための道具があるというだけで、気持ちには余裕があった。


「これなら、もう少し森の奥まで行ってみてもいいかな」


これまでの探索では、できるだけ危険を避けていた。


けれど、いつまでも同じ場所を歩いているわけにもいかない。


食料も探さなければならないし、もっとこの森のことを知る必要もある。


「〖検索〗で危険度を確認しながらなら……大丈夫」


葵はいつもより少しだけ森の奥へ向かって歩き始めた。


⸻


しばらく進むと、周囲の景色が変わってきた。


木々の間隔が狭くなり、地面には大きな岩が増えている。


「この辺、来たことないな……」


葵は〖検索〗を使いながら慎重に進む。


今のところ、危険な反応はない。


さらに進んだところで――。


「……あれ?」


岩壁の向こうに、黒い穴が見えた。


近づいてみる。


「洞窟……?」


かなり大きな洞窟だった。


入り口だけでも人が数人並んで歩けそうなほど広い。


けれど、中は真っ暗。


普通なら、一歩入っただけで何も見えなくなりそうだ。


「……まあ」


葵は洞窟の奥を見つめる。


「私、暗いところ見えるし」


【夜間視力】。


ブラックウルフを食べたことで得た特性だ。


洞窟の中を覗いてみる。


「……ちゃんと見える」


暗闇の中でも、岩の形や地面の様子がぼんやりと分かる。


「これ、本当に便利だなぁ」


葵は少し感心しながら、洞窟の中へ入っていった。


⸻


洞窟の中はひんやりしていた。


外よりも空気が冷たく、湿っている。


「……静か」


自分の足音だけが、岩壁に反響する。


少し進んだところで――。


パタパタパタッ!


「……?」


頭上から何かが飛び立った。


「うわっ!」


葵が反射的に身をかがめる。


黒い影が何匹も頭上を飛び回る。


「コウモリ……?」


〖検索〗を発動する。


《種族:ナイトバット》


《危険度:低》


「危険度は低い……」


葵は弓を構える。


ナイトバットがこちらへ向かってくる。


「……来る!」


一匹目。


矢を放つ。


ヒュッ――。


ドスッ。


《討伐を確認》


「よし!」


続けて二匹目。


三匹目。


暗い洞窟の中でも、葵には相手の姿が見えている。


さらに【動体視力強化】もある。


「……そこ!」


矢を放つ。


《討伐を確認》


数匹のナイトバットを倒すと、残りは洞窟の奥へ逃げていった。


「……ふぅ」


葵は弓を下ろした。


「思ったより何とかなった」


倒したナイトバットを〖保存〗に入れる。


その瞬間――。


《経験値を獲得しました》


しばらくして、


《レベルが上昇しました》


《レベル:11 → 12》


「また上がった!」


葵は嬉しそうに笑う。


「順調、順調」


⸻


さらに洞窟の奥へ進む。


今度は、壁際に何かが動いた。


「……?」


よく見る。


「…………蜘蛛」


葵の顔が引きつった。


壁に張り付いていたのは、かなり大きな蜘蛛だった。


《種族:ダークスパイダー》


《危険度:低》


「……蜘蛛かぁ」


日本にいた頃なら、絶対に近づかない。


でも――。


今は異世界。


ここは魔の森。


そして目の前にいるのは魔物。


「……やるしかない」


ナイフを抜く。


ダークスパイダーがこちらを向いた。


次の瞬間、糸が飛んでくる。


「っ!」


横へ飛ぶ。


地面に白い糸が絡みついた。


「危なっ……!」


葵は距離を取り、弓を構える。


蜘蛛が壁を這って近づいてくる。


「そこ!」


矢を放つ。


《討伐を確認》


「……よし!」


さらに奥から、もう一匹。


「まだいるの!?」


今度はナイフを握る。


蜘蛛が飛びかかってくる。


葵は身体を横へずらし、すれ違いざまにナイフを振り抜いた。


《討伐を確認》


「……はぁ……」


葵は荒く息を吐いた。


「きもいぃ……」


それでも、倒した。


ナイトバットも、ダークスパイダーも。


⸻


葵は保存した魔物を取り出し、じっと眺めた。


ナイトバット。


ダークスパイダー。


「…………」


特にダークスパイダーを見る。


「……これ、食べるの?」


普通の日本人なら、なかなか抵抗のある光景だ。


葵だって嫌だ。


むしろ、かなり嫌だ。


「……でも」


葵は思い出す。


ブラックウルフを食べた。


ホーンラビットも食べた。


スモールリザードも食べた。


そして、それによって自分は強くなった。


新しい特性を手に入れた。


「……食べたら絶対、新しい力手に入るよなぁ」


〖検索〗を使う。


《ナイトバット:食用可能》


《ダークスパイダー:食用可能》


「……食べられちゃうんだもんなぁ」


葵はしばらく黙った。


そして――。


「よし」


拳を握る。


「食べよう」


嫌だけど。


怖いけど。


強くなるためには、食べなければならない。


そう考えれば、少しだけ覚悟が決まった。


⸻


「……そのままは無理」


葵は二匹の魔物を見ながら呟いた。


「見た目が……」


食べるのが好きな葵は、ネットで見た美味しそうなものを自分で作っていたためそこそこ料理はできるほうだ。


「なんとか見た目だけでも美味しそうにするしかない」


まずはナイトバット。


食べられる部位を〖検索〗で確認し、〖分割〗で肉を取り出す。


血抜きや下処理が必要ないのがありがたい。


ダークスパイダーも同じように処理する。


「……蜘蛛だと思わなければいい」


肉だけにしてしまえば、見た目はかなり違う。


葵はキノコと薬草を取り出す。


塩。


ピリカの実。


そして、少量のキネの実。


「これなら……」


ナイトバットの肉を香草と一緒に焼く。


ジュウジュウと音を立てながら、香ばしい匂いが広がる。


「……いい匂い」


続いて、ダークスパイダーの肉。


こちらはキノコと一緒に煮込み、薬草と塩で味を整える。


「……うん」


見た目は普通の肉料理になった。


「これなら……食べられる」


葵は手を合わせた。


「いただきます」


まずナイトバットの肉。


ぱくっ。


「…………」


葵はしばらく噛む。


「……あれ?」


意外だった。


「普通に美味しい」


少し野性味はある。


でも、薬草の香りと塩気がよく合っている。


「これなら食べられる!」


葵はどんどん食べていく。


そして――。


《固有スキル〖暴食〗が発動しました》


《対象:ナイトバット》


《特性を確認》


《【超音波感知】を獲得しました》


「……超音波感知?」


葵は目を丸くする。


検索すると、


《周囲の音波を利用し、暗闇や視界不良の環境でも周囲の状況を把握できます》


「……コウモリみたいな能力?」


どうやら、そのようだ。


「すごい……!」


新しい力を手に入れたことに、葵は嬉しくなった。


そして次。


問題のダークスパイダー。


「…………」


葵は鍋を見る。


「……蜘蛛」


一度、目を閉じる。


「これは肉」


もう一度開く。


「肉。蜘蛛じゃない」


スプーンで一口。


「…………」


咀嚼する。


「……」


そして――。


「……これも、美味しい」


キノコと一緒に煮込んだことで、蜘蛛特有の見た目は完全に消えている。


葵は少し安心した。


「料理ってすごい……」


そのまま食べ進める。


すると――。


《固有スキル〖暴食〗が発動しました》


《対象:ダークスパイダー》


《特性を確認》


《【魔糸創生】を獲得しました》


「…………」


葵は表示された文字を見つめた。


【魔糸創生】。


「……魔糸創生?」


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