第15話 魔糸創生
「……魔糸創生?」
葵は、目の前に表示された文字をじっと見つめていた。
先ほど倒したダークスパイダーを食べたことで、新しく手に入れた特性。
【魔糸創生】
名前だけでは、どんな能力なのか分からない。
「検索してみよう」
葵は〖検索〗を発動した。
《特性:【魔糸創生】》
《魔力を消費し、特殊な糸を生成する》
《生成された糸は高い強度と耐久性を持つ》
「……魔力を使って、糸を作る?」
葵は首を傾げた。
「どうやって?」
検索結果には、具体的な使用方法までは表示されない。
「……とりあえず、試してみるしかないか」
葵は右手を前に伸ばした。
「【魔糸創生】」
何も起こらない。
「……あれ?」
もう一度。
「魔糸創生!」
すると――。
指先から、白く細いものがスッと伸びた。
「……え?」
葵は固まった。
細い。
白い。
そして、わずかに光を帯びている。
恐る恐る指でつまんでみる。
「……」
引っ張る。
ピンッ。
切れない。
「え?」
もう少し強く引っ張る。
「……切れない」
葵は目を輝かせた。
「これって……」
もう一度、指先を見る。
「糸!?」
間違いない。
見た目も、触った感触も、完全に糸だった。
「魔力から糸が出てきた……!」
葵は興奮したように、何度も糸を伸ばしてみる。
太さを変えてみる。
短くしてみる。
少し長くしてみる。
「すごい……」
そして、あることを思い出した。
「……糸」
葵は自分の身体を見る。
正確には――。
自分が着ている制服を見る。
⸻
転移してから、どれくらい経っただろう。
最初は綺麗だった制服も、今ではすっかりボロボロだ。
泥や土で汚れている。
何度も転んだせいで擦り切れている。
魔物から逃げたり、戦ったりしたせいで、あちこちに裂け目もある。
袖の一部は破れ、スカートの裾もほつれていた。
「……これ」
葵は破れた部分をつまむ。
「直せるかも」
服飾部に所属していた葵にとって、服の修繕は難しくない。
糸さえあれば、縫うことができる。
しかもこの魔糸は、普通の糸よりずっと丈夫そうだ。
「これなら、かなり丈夫な服にできそう」
葵の頭の中に、次々とアイデアが浮かんでくる。
破れたところを補修して。
弱くなった部分を補強して。
もしかしたら、魔物の素材も使って――。
「……ふふ」
思わず笑みがこぼれた。
久しぶりに、服を作ることを考えている。
学校では一人で黙々と作業していることが多かった服飾部。
家でも、誰にも見せずにコスプレ衣装を作っていた。
裁縫をしている時間は好きだった。
集中している間は、嫌なことを何も考えなくて済む。
「……やっぱり、こういうの好きだな」
葵は小さく呟いた。
そして――。
「あ」
大事なことに気づく。
「……針」
葵は固まった。
「…………」
糸はある。
布もある。
縫う技術もある。
でも。
「針がない……!」
葵は頭を抱えた。
「そこ忘れてたぁ……!」
魔の森に裁縫道具なんてあるはずがない。
持っている道具を確認してみる。
ナイフ。
弓。
矢。
金属片。
「……これじゃ針は作れないよね」
葵は少し考えた。
そして、すぐに思い出す。
「そうだ!」
【サーチ】。
「検索先生、お願いします!」
葵は早速、検索を開始した。
「魔の森で手に入る、裁縫針に使える素材!」
《検索条件を確認》
《裁縫針に適した素材を検索します》
しばらくして、結果が表示された。
《該当素材》
《ホーンラビットの角》
「やっぱり!」
これまで何度も倒してきた魔物。
その角なら、硬さも十分。
さらに詳しく調べる。
《加工方法:研磨》
《必要形状:細長く、先端を鋭利に加工》
《推奨:糸を通すための穴を開ける》
「……穴かぁ」
葵は角を手に取った。
「細く削るだけなら何とかなるけど……穴はどうやって開けよう」
再び検索。
《推奨工具:細径ドリル、穿孔工具》
「……そんなもの持ってない」
葵は周囲を見回す。
そして、少し考えた。
「……金属片」
転移直後から使っていた金属片。
それをさらに細く加工する。
「これを使えば……」
少しずつホーンラビットの角を削っていく。
細く。
細く。
折れないように慎重に。
「……難しい」
何度も検索結果を確認しながら、作業を続ける。
途中で一度、先端を削りすぎて折ってしまった。
「……あ」
二本目。
今度は慎重に。
そして最後に、金属片を使って小さな穴を開ける。
「……」
息を止める。
少しずつ。
少しずつ。
やがて――。
「……できた」
葵の手の中には、一本の細い角製の針があった。
白っぽく、ほんの少し光沢がある。
「……裁縫針」
指先で慎重に触れる。
「私、魔物の角から針作っちゃった……」
なんだか不思議な気分だった。
でも――。
糸がある。
針もある。
そして、修繕したい制服もある。
葵は完成した針と魔糸を並べて眺めた。
「これで……直せる」
久しぶりに、自分の好きなことができる。
そう思うと、自然と口元が緩んだ。
「……明日、直そう」
魔の森での生活に、また一つ。
新しい楽しみが増えた。




