第16話 裁縫
朝、薄暗い森で葵は膝に制服を広げる。
裂けた袖、ほつれた裾。
指先でなぞりながら、そっと〖魔糸創生〗を発動する。
白い糸がすっと伸びて、朝の光を細くはじく。
「よし」
角で作った不恰好な針を持ち上げて、ひと針目を通す。
布は思ったよりも素直に針を受け入れた。
ひと針、またひと針。
黙々と手を動かすうちに、葵の肩から少しずつ力が抜けていく。
久しぶりだな、こんなふうに何も考えずに縫うの。
小さくつぶやいて、自分でも驚くくらい穏やかな気持ちになっていることに気づく。
やがて、破れた部分がきれいに塞がり、魔糸の縫い目がほのかに光った。
「……思ったよりいいかも」
指でなぞると、そこだけ少ししっかりしているのが分かる。
ただ――足元には、使い切った角の欠片と、足りなくなった素材の山。
もっとちゃんとした布を作れないかな。
糸があるなら、布も。
葵は膝を抱え込むようにして考える。
そして、ぽつりと呟いた。
〖検索〗機織り、やり方。
頭の中に、簡易的な織り機のイメージが流れ込んでくる。
「木と蔓、それから支点がいくつか」
葵は顔を上げて、森の奥へと視線を向ける。
もっと素材がいる。
木材、丈夫な蔓、もしかしたら別の魔物の素材も。
胸の奥が、わずかに高鳴る。
「行ってみよう」
葵はそっと立ち上がり、針と糸を大事にしまうと、森のさらに奥へと足を踏み出した。
まだ何があるかなんて分からない。
でも、自分の手で何かを作れる。
その小さな実感だけが、今の葵の背中を確かに押していた。




