↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
38/40

第37話 自己紹介

朝。


森の中に差し込む柔らかな光で、葵は目を覚ました。


「……ん……」


ゆっくりと身体を起こす。


まだ少し眠い。


葵はぼんやりと周囲を見渡し――昨日の出来事を思い出した。


「……そうだ」


昨日、倒れていた狼獣人を助けたのだ。


葵は慌てて、少し離れた場所を見る。


そこには、昨日助けた狼獣人が横になっていた。


「……」


葵はそっと近づく。


規則正しい呼吸。


胸がゆっくりと上下している。


「……よかった」


ちゃんと生きている。


それを確認すると、葵はほっと胸を撫で下ろした。


「昨日は本当に危なかったもんな……」


傷はまだ完全には治っていない。


けれど、昨日より顔色はずっと良い。


これなら大丈夫そうだ。


葵は静かに立ち上がった。


「……朝ご飯、作ろう」


⸻


葵は保存してある食材を取り出した。


「今日は……これにしようかな」


肉を細かく切る。


キノコも食べやすい大きさにする。


鍋に水を入れ、焚き火にかける。


肉を入れ、しばらく煮込む。


キノコとハーブを加えると、少しずつ良い香りが漂い始めた。


「うん……いい感じ」


葵が鍋をかき混ぜていると――。


「……」


背後から気配を感じた。


振り返る。


グレンが身体を起こしていた。


「おはようございます」


「……ああ」


昨日と比べれば、声にも力が戻っている。


「傷、大丈夫ですか?」


「ああ。昨日よりかなり楽だ」


「よかった……」


葵は笑顔になる。


「もう少しで朝ご飯できますから、ちょっと待っててください」


「……分かった」


葵は再び鍋へ向き直った。


やがて料理が完成する。


「できました!」


二人分を器によそう。


「どうぞ」


「……ありがとう」


グレンは匙を手に取り、料理を口に運ぶ。


柔らかく煮込まれた肉。


キノコの旨味。


ハーブの香り。


「……うまいな」


「本当ですか?」


「ああ」


葵は嬉しそうに笑った。


「よかったです!」


二人はしばらく黙って朝食を食べた。


そして、食事が終わったところで――。


グレンが口を開いた。


⸻


「昨日は助かった」


「え?」


「お前がいなければ、俺は死んでいただろう」


そう言って、グレンは葵を見る。


「俺の名前は――グレンだ」


「グレンさん……」


葵はその名前を頭の中で繰り返す。


「見て分かると思うが、狼の獣人だ」


「はい」


グレンはそれ以上、自分について語ろうとはしなかった。


葵も、無理に聞こうとは思わなかった。


昨日会ったばかりなのだ。


話したくないことくらい、きっとある。


「……あ!」


葵も慌てて自己紹介をする。


「私は一ノ瀬葵です!」


「……」


「葵が名前です」


「……?」


グレンが少しだけ首を傾げる。


「一ノ瀬が姓で、葵が名前です」


「……そうか」


「はい!」


葵は満足そうに頷いた。


⸻


「じゃあ、グレンさん。傷の手当てしますね」


「ああ」


葵は家の隅に置いてあるカゴへ向かう。


中には、これまで森で集めてきた薬草がいくつも入っている。


ヒールフラワー。


ブルーハーブ。


その他、〖検索〗で調べて集めた薬草。


葵はいくつかを取り出すと、石の器に入れてすり潰し始めた。


ゴリゴリ……。


「……」


グレンはその様子を眺めていた。


「昨日も思ったが」


「はい?」


「その薬草は、どこで手に入れたんだ?」


「この森です」


葵は何でもないように答えた。


「……」


グレンの眉が僅かに動く。


「違う世界から来たはずのお前が、なぜ薬草の知識がある?」


「ああ、それは……」


葵は少し考えてから答えた。


「これは私の〖検索〗というスキルを使うと、いろいろ教えてもらえるので」


「〖検索〗?」


「はい。それでちょっとずつ集めました」


グレンは考え込む。


「〖検索〗……聞いたことのないスキルだな」


「そうなんですか?」


「ああ」


グレンは薬草を見る。


「薬草以外にも使えるのか?」


そして、すぐに付け加えた。


「あ、いや。言いたくなければ無理に言わなくていい」


「え?」


葵は目を丸くする。


「全然大丈夫ですよ」


そう言って、葵は少し考える。


「えっと……対象を指定すると、薬草以外にも使えます」


「対象を指定?」


「はい。物とか、魔物とか……」


「魔物にも?」


「はい。でも、強すぎる魔物とかには使えないんですが……」


グレンは少し考える。


「……充分に強いスキルだな」


「そうですか?」


「ああ」


グレンはそれ以上聞かなかった。


葵もそれ以上説明することはなかった。


⸻


「じゃあ、傷を見せてもらってもいいですか?」


「ああ」


グレンが身体を見せる。


昨日当てた薬草を、葵が慎重に外していく。


「ちょっとだけ染みるかもしれません」


「構わない」


葵は水で傷口を丁寧に洗う。


昨日よりも傷の状態は良くなっていた。


「……うん」


葵は新しい薬草をすり潰し、傷口へ当てる。


その上から――。


「これで固定しますね」


葵は以前作っておいた布を取り出した。


服などを作るために集めていた、綺麗な布だ。


それを適当な幅に割いて、包帯のように使う。


ぐるぐると巻いていく。


最後にしっかり固定する。


「……できました!」


葵は満足そうに手を叩いた。


「違和感あるところないですか?」


グレンは傷を確認する。


「……ない」


腕を少し動かす。


昨日まであれほどあった痛みが、ほとんど感じられない。


「ありがとう」


「いえいえ」


「昨日までの痛みが、嘘のようだよ」


「本当ですか?」


葵の顔がぱっと明るくなる。


「よかったぁ……!」


その笑顔を見て、グレンは少しだけ目を細めた。


この少女は、本当に不思議だ。


見知らぬ人間である自分を助け。


傷を治療し。


食事まで用意した。


何か裏があるようにも見えない。


ただ――。


純粋に自分を助けようとしている。


そんな印象だった。


「……」


グレンは、巻かれた布を見る。


綺麗な布。


しっかりとした作り。


この森で一人で生活している少女が、どうやってこんなものまで用意したのか。


聞こうと思えば聞ける。


だが――。


自分自身も、まだ話していないことが多い。


今は、これ以上踏み込まないことにした。


⸻


「じゃあ、私はちょっと探索に行ってきますね」


「……探索?」


「食べ物とか、使えそうなものを探しに」


葵は立ち上がる。


すると――。


「俺も行く」


「え?」


グレンも立ち上がろうとする。


だが。


「いやいや!」


葵が慌てて止める。


「無理は禁物です!」


「だが――」


「今日は休んでてください!」


「……」


「傷、まだ治りきってないんですよ?」


葵はそう言いながら、昨日作ったクッションを手に取り、グレンに差し出した。


「これ使ってください」


「……またこれか」


グレンはクッションを見る。


「座って休んでてくださいね」


「……」


グレンは小さく息を吐いた。


「分かった」


クッションを受け取る。


「気をつけろよ」


「はい!」


葵は笑顔で答えた。


「行ってきます!」


そう言って、葵は家を出ていった。


静かになった家の中。


グレンはクッションに腰を下ろす。


ふわりと身体が沈む。


「……」


やはり、不思議な少女だ。


この危険な森で一人で暮らしながら、他人を助ける余裕まで持っている。


もう少しだけこの少女を信用してもいいのかもしれない。


そんなことを思いながら、グレンは目を閉じた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
面白いです AIの短文連打傾向が気になるのなら対策プロンプトありますがいりますか?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。