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第34話 ふわふわの誘惑

「……よく寝た」


目を覚ました葵は、ゆっくりと身体を起こす。


朝食を済ませ、今日も森へ向かう。


「今日は何か面白いもの見つかるかな」


⸻


しばらく歩いていると、木の幹に、白っぽい蔓が絡みついているのが見えた。


普通の蔓とは違う。


表面が細かな繊維で覆われている。


「……これ、糸にできそう」


〖検索〗。


――《ホワイトヴァイン》


特殊な蔓植物。


乾燥させることで繊維を取り出すことができる。


繊維は柔軟で丈夫。


衣服やロープなどの材料として利用可能。


「色々使えそう!」


周囲を見回すと、まだまだ生えている。


「採れるだけ採っておこう」


葵はホワイトヴァインを丁寧に採取し、〖保存〗する。


「これでよし」


いつか何かを作るときに使える。


そう思うだけで少し嬉しくなった。


⸻


さらに森の奥へ進む。


すると。


「……あれ?」


白いふわふわしたものが、風に揺れている。


「……雪?」


よく見ると、木の枝から大量の白い綿毛が飛んでいる。


「何これ……?」


近づいてみると、木の枝には小さな実のようなものがついていた。


〖検索〗。


――《コットンツリー》


綿状の繊維を持つ実をつける植物。


繊維は非常に軽く、保温性に優れる。


衣服や布団などの素材として利用できる。


「……綿!」


葵は目を輝かせた。


「綿まであるの!?」


実を一つ採取し、指で触れてみる。


ふわふわ。


「……柔らかい」


思わず頬に当てる。


「気持ちいい!これクッションにできないかな?」


思いついた瞬間、頭の中に完成したクッションの姿が浮かんだ。


「……いいかも」


葵は一気にやる気になった。


「これもいっぱい採っておこう!」


コットンツリーの実を次々と採取する。


〖保存〗。


「ふふ……」


綿だけでこんなに嬉しくなるなんて。


元の世界では当たり前にあったものが、この世界では貴重な素材だ。


そう思うと、なんだか不思議な気分になる。


⸻


その後、少し森を歩いたところで【気配察知】が反応した。


「……いる」


近くに一匹。


それほど大きくない。


葵は慎重に近づき、木の陰から覗いてみる。


「……ウサギ?」


白い毛と長い耳。


以前倒したホーンラビットに少し似ているが、角がない。


〖検索〗。


――《フロストラビット》


寒冷地や森の奥に生息する小型魔物。


非常に柔らかな毛を持つ。


毛には高い保温性があり、防寒着の素材として利用される。


「……!」


またしても服の素材。


「ごめん」


葵は弓を構え、矢を放つ。


フロストラビットがこちらに気づくよりも先に、矢が眉間を貫く。


難なく倒し〖分割〗を使って、素材をわける。


肉。


毛皮。


魔石。


「毛皮……」


〖検索〗。


――《フロストラビットの毛皮》


非常に柔らかく、保温性に優れる。


衣服や防寒具に適している。


「これは冬用だなぁ」


毛皮を撫でる。


「マフラーとか……上着とか……」


想像が膨らんでいく。


葵は素材を〖保存〗し、家へ戻ることにした。


⸻


家に着くなり、葵は以前作った布でクッションのカバー部分を作る事にした。


布を裁断し――


「〖魔糸創生〗」


指先から魔力が流れ、スルスルと特殊な糸が生み出されていく。


魔糸を使って布を縫い合わせ、袋状にする。


最後に綿を詰めるための部分だけ開けておき、〖保存〗からコットンツリーの綿を取り出す。


ふわっ。


「……!」


予想以上に大量の綿。


「これ、全部入るかな」


葵は少しずつ詰めていく。


押し込む。


ふわふわ。


さらに詰める。


ふわふわ。


「……なんか楽しい」


気づけば夢中になっていた。


十分な量を詰め込んだところで、最後の部分を魔糸で縫う。


「完成!」


できた。


黒っぽい布で作った、少し大きめのクッション。


葵はそっと床に置き、触れてみる。


ふわぁ……。


「……なにこれ、最高……」


思わずそのまま倒れ込む。


「柔らかい……」


今までずっと硬い床や簡素な寝床で過ごしてきた。


だからこそ、この柔らかさがたまらない。


「……もっと作ろうかな」


一個では足りない。


「二個……いや、三個……」


葵はすっかりクッションの虜になっていた。


⸻


少し休んだあと、葵は再び立ち上がる。


「まだ時間あるし、もう少し素材を探してこよう」


今度は生活に使えそうなものを中心に探す。


「これ、籠に使えそう」


〖保存〗。


「これはロープにできる」


〖保存〗。


「こっちは……家具の補強材?」


〖保存〗。


一つ一つ調べながら採取していく。


そのとき、葵の足が止まる。


「……?」


【気配察知】が、今まで感じたことのない気配に警鐘を鳴らす。


大きい。


……いや、大きさだけじゃない。


なんというか、妙に濃い。


「…………」


葵は動かずに、その気配を探る。


遠いけれど、確かにいる。


森の奥、木々の向こう。


「……この気配、なんだろう?」


答えは返ってこない。


〖検索〗を使っても、対象が分からない距離なのか。


それとも――


また、あの正体不明の存在なのか。


葵はそれ以上進むのをやめた。


「……今日は帰ろう」


まだ知らないものが多すぎる。


だからこそ。


少しずつ。


少しずつでいい。


葵は採取した素材を〖保存〗にしまい、家へ戻った。

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