第32話 毒蛙の肉
翌朝。
葵は家を出ると、昨日グレイベアと遭遇した場所とは反対側へ向かった。
しばらく進むと、少しずつ地面が湿ってきた。
「……水辺?」
木々の間から、細い川が見えてくる。
水は濁っており、沼地のような場所だった。
「何か採れるかな?」
川沿いを歩いていると――
――ピョンッ。
「……ん?」
何かが視界の端を横切った。
葵は足を止める。
「どこ?」
周囲を見回す。
すると。
――ピョンッ!
「わっ!」
今度ははっきり見えた。
緑色の巨大なカエル。
普通のカエルより二回りも三回りも大きい。
「……カエル?」
そのカエルは葵を見ると、大きく口を開いた。
「ゲコォッ!」
「うわっ!」
舌が勢いよく伸びてくる。
「危なっ!」
葵は横へ飛んだ。
舌が木の幹に巻き付く。
「……捕食するタイプか」
ナイフを握る。
カエルが再び跳びかかってくる。
葵は身体を捻ってかわし、そのまま横へ回り込む。
「そこ!」
ザシュッ!
ナイフがカエルの身体を切り裂く。
「ゲ……」
巨大なカエルは、そのまま地面に倒れた。
「……ふぅ」
私は息を吐く。
「〖分割〗」
カエルの身体を分ける。
肉。
皮。
毒腺。
舌。
魔石。
「……毒腺?」
嫌な予感がする。
毒腺を〖検索〗。
――《ポイズンフロッグの毒腺》
強力な神経毒を生成する器官。
摂取した場合、吐き気、めまい、痙攣などの症状を引き起こす。
「……やっぱり」
毒腺をすぐに〖保存〗に入れる。
次に、肉を見る。
「こっちは……?」
〖検索〗。
――《ポイズンフロッグの肉》
毒性を持つ魔物の肉
微量の毒性成分を含む
獲得可能な特性
【毒耐性】
「食用可能になってないけど…」
葵は少し迷った。
「……毒耐性か」
思わず肉を見る。
「……あったら心強いかも」
毒を持つ魔物なんて、これからいくらでも出てくるかもしれない。
この森で生きていくなら、あって困る能力じゃない。
「カエル肉……」
少し考える。
「元の世界でも食べてる地域はあったんだし……大丈夫だよね」
葵はしばらく調理済みの肉を見つめた。
「……いただきます」
一口。
次の瞬間。
胃の奥がぐっと締め付けられる。
「気持ち……悪……」
強烈な吐き気。
視界が揺れる。
「……なに、これ……」
立っていられない。
膝から力が抜ける。
「う……」
地面に手をつく。
頭がぐらぐらする。
身体が言うことを聞かない。
毒。
そう理解した瞬間――
頭の中に、機械的な声が響いた。
─【毒耐性】を獲得しました。
「……!?」
その瞬間、身体の中を何かが駆け抜けた。
熱い。
それが全身へ広がり、さっきまでの吐き気が少しずつ引いていく。
「……あれ?」
ぐらぐらしていた視界が戻ってくる。
頭の重さも消えていく。
「……治った?」
葵はゆっくり立ち上がった。
さっきまで立つことすらできなかったのに。
今はもう、普通に立てる。
「……毒耐性」
葵は自分の身体を見る。
もちろん、見た目に変化はない。
〖検索〗
――【毒耐性】
体内に侵入した毒の効果を無効にする。
「……ちゃんと獲得してる」
葵はポイズンフロッグの肉を見る。
「……もう一口」
ぱくっ。
「…………」
今度は何ともない。
「……平気だ」
私は驚いた。
毒による症状が出ない。
「すごい……!」
さっきまで死にそうなくらい気持ち悪かったのに。
今は何も感じない。
「これが……耐性か」
葵は残った肉を見つめる。
「……じゃあ、食べても大丈夫なのかな」
少しずつ食べていく。
味は――
「……鶏肉っぽい?」
意外と普通だった。
「カエルって、こんな感じなのかな……」
元の世界でも食べられていた理由が、少し分かった気がする。
葵は川を眺めながら、ふと思った。
この森には、本当にいろんな魔物がいる。
速い魔物。
力の強い魔物。
再生する魔物。
そして――毒を持つ魔物。
「……食べると、その力をもらえる」
自分の能力を改めて実感する。
「やっぱり〖暴食〗って……すごい能力だな」
そう呟いて、葵は家へ向かって歩き始めた。




