第31話 森の奥で見つけたもの
「……よし」
焚き火の跡を片付け、簡単に朝食を済ませる。
昨日の探索で手に入れたブルーハーブを少し混ぜたスープ。
疲労回復の効果があるらしいので、今日はこれを食べてから出発することにした。
「今日は……もう少し奥まで行ってみよう」
森の中へ入る。
昨日までよりも、少しだけ足取りが軽い。
理由はもちろん――
【気配察知】
これがあるからだ。
目を閉じる。
周囲の気配を探る。
「……いる」
少し離れた場所に、小さな生き物。
さらにその向こうにも別の気配。
以前なら、見えない場所に何かがいるだけで怯えていた。
でも今は、ある程度なら把握できる。
「便利だなぁ……」
私は気配を確認しながら、森の奥へ進んでいった。
すると――
「あっ」
足元に見慣れない草を発見する。
しゃがみ込み、〖検索〗。
――《フォレストミント》
森に自生する薬草。
葉を乾燥させることで、清涼感のある香料や飲み物として利用できる。
「ミント……!」
料理にも使えそうだ。
私は根を傷つけないように採取し、〖保存〗する。
さらに周囲を探す。
「あ、こっちにも何かある」
今度は赤紫色の小さな実。
〖検索〗。
――《ダスクベリー》
夜間に強く香りを放つ果実。
食用可能。
ほんのり甘く、酸味が強い。
「ベリー系!」
これはお菓子にも使えそう。
私は嬉々として採取していく。
そのとき――
――ガサッ。
「……?」
物音。
私はすぐに立ち上がった。
右手にナイフを握る。
……いる。
【気配察知】の能力で、魔物の気配を探る。
前方。
かなり近い。
「一匹……?」
気配は一つ。
なら――
大丈夫。
そう思った瞬間。
木の陰から何かが飛び出してきた。
「っ!」
葵は反射的に横へ跳ぶ。
ドンッ!!
さっきまで葵が立っていた場所に、巨大な何かが突っ込んできた。
「な、なに!?」
木の葉が舞う。
四足歩行。
葵より一回り以上大きい。
灰色の毛。
長い爪。
そして――
「……クマ!?」
〖検索〗。
――《グレイベア》
森に生息する大型魔物。
非常に強い腕力を持ち、爪による攻撃は危険。
雑食性。
「……魔物のクマ……!」
グレイベアがこちらを睨む。
「グォォォォォッ!!」
咆哮。
「……っ!」
怖い。
普通に怖い。
だけど――
葵はナイフを構えた。
「……逃げるだけじゃ、いつか限界が来る」
今の葵には、これまで生き残ってきた力がある。
「……やるしかない!」
グレイベアが突進してくる。
ドドドドドッ!!
「速っ!」
葵は横へ跳ぶ。
爪が目の前を通過する。
ブンッ!
「危なっ……!」
私はそのまま地面を蹴る。
グレイベアの背後へ回り込み――
ザシュッ!
ナイフを振る。
「グォッ!?」
だが。
浅い。
毛皮が硬すぎる。
「全然効いてない……!」
グレイベアが振り返る。
巨大な腕が振り下ろされる。
「っ!」
葵は身体を捻って回避。
ドゴォン!!
地面が砕けた。
「嘘でしょ……!」
まともに受けたら、一撃で終わる。
距離を取る。
そして弓を構えた。
矢をつがえる。
「……ここ!」
ヒュンッ!
矢がグレイベアの肩へ突き刺さる。
「グォォッ!」
効いている。
けれど、致命傷には程遠い。
「……やっぱり強い」
葵はもう一度矢を構える。
しかし――
グレイベアが突然、こちらから視線を外した。
「……?」
そして。
森の奥へ向かって走り出した。
「え?」
逃げた?
違う。
グレイベアは何かに怯えているようだった。
そして、その瞬間。
【気配察知】が反応する。
「……え?」
グレイベアの向こう。
もっと奥。
そこに――
巨大な気配がある。
しかも。
動いていない。
ただ、そこにいる。
「…………」
私は〖検索〗を発動する。
――検索結果なし。
「……また?」
以前感じた、正体不明の存在。
あのときと同じだ。
検索できない。
葵は一歩後ずさった。
今の自分では、あの巨大な気配と戦えるとは思えなかった。
葵は採取したフォレストミントとダスクベリーだけを持って、急いで来た道を戻る。
何度か振り返る。
けれど、何も見えない。
ただ――
「……見られてる気がする」
そんな嫌な感覚だけが残っていた。
⸻
葵は家に到着し、採取した素材を〖保存〗から取り出して並べる。
「フォレストミントに……ダスクベリー」
森の奥を思い出す。
グレイベア。
そして、そのさらに奥にいた巨大な気配。
「……あれ、何だったんだろう」
〖検索〗でも分からない。
今まで出会った魔物とは、明らかに違う。
「……もっと強くならないと」
葵は焚き火に薪をくべた。
今日は戦ったけれど――
何も倒していない。
だから、当然。
新しい肉も、魔石も手に入っていない。
それでも。
今日の探索には意味があった。
この森の奥には、自分ではまだ敵わない存在がいること。
葵は、はダスクベリーを一粒口に入れた。
「……酸っぱ!」
思わず顔をしかめる。
「でも、美味しい」
小さく笑う。
そして葵は、今日見た森の奥の光景を思い出しながら眠りについた。




