第30話 新しい感覚
葵はいつもより少し早く目を覚ました。
「……昨日、【気配察知】を手に入れたんだよね」
まだ実感がない。
葵は小屋の外へ出ると、目を閉じた。
「……」
風の音。
木々の葉が擦れる音。
鳥の鳴き声。
いつもなら、それだけ。
けれど今日は――。
「……あ」
何かがいる。
小屋から少し離れた場所。
「右……?」
目を開けてそちらを見る。
木の陰から、小さな動物が顔を出していた。
「当たってる……!」
葵は驚いた。
「目で見てないのに、分かった」
もう一度、目を閉じる。
今度は別の方向。
「……あっちにもいる」
小さな気配。
さらに遠く。
「……こっちは、ちょっと大きい?」
まだ正確な位置までは分からない。
けれど、確かに何かの存在を感じる。
「すごい……」
〖検索〗とは全然違う。
〖検索〗なら、調べたい対象を意識して探す必要がある。
でも【気配察知】は、何もしなくても周囲の存在をぼんやり感じ取れる。
「これなら、森の中で不意打ちされにくくなるかも」
葵は嬉しそうに笑った。
⸻
その日は、【気配察知】の検証をしながら森を歩くことにした。
まずは小動物。
次に鳥。
そして、少し離れた場所にいる魔物。
「……いる」
木の向こう。
〖検索〗。
《対象:スモールリザード》
「本当に分かる」
しかも、〖検索〗を使う前から存在を感じ取れていた。
「便利だなぁ」
ただし、まだ距離や数までは正確に分からない。
強い魔物がいるのか、弱い魔物がいるのかも明確には判断できない。
「もっとレベルが上がれば、もっと分かるようになるのかな」
そう思いながら歩いていると――。
「……あれ?」
今度は、少し変な感覚がした。
「気配が……薄い?」
目を凝らす。
木々の間に何かいるような気がする。
でも、はっきりとは分からない。
〖検索〗。
《対象:フォレストバード》
「あ、鳥だった」
葵は苦笑する。
⸻
その後、葵はいつもより少しだけ奥まで進んだ。
すると――。
「……また、見たことない植物」
青紫色の葉を持つ植物。
〖検索〗。
《素材:ブルーハーブ》
《薬効:軽度の疲労回復》
《食用:可能》
「疲労回復?」
葵は興味深そうに眺める。
「これ、料理にも使えるかな」
必要な分だけ採取して〖保存〗する。
さらに進むと、木の根元に白いキノコを見つけた。
〖検索〗。
《素材:ホワイトマッシュ》
《食用:可能》
《特徴:加熱すると旨味が増す》
「……美味しそう」
採取。
〖保存〗。
「今日の夕飯はこれにしよう」
探索の目的が、いつの間にか食材探しにもなっていた。
⸻
小屋へ戻ると、今日採取したブルーハーブとホワイトマッシュを使って夕食を作る。
焼いた肉にキノコを添え、ブルーハーブを刻んで香りをつける。
「いただきます」
一口食べる。
「……美味しい!」
疲労回復の効果もあるのか、身体が少し軽くなった気がする。
「森の食材って、ちゃんと料理すると結構美味しいんだよね」
葵は満足そうに食事を続けた。
そして食事を終えると、今日集めた素材を〖保存〗へ整理する。
「……明日は何を探そうかな」
服。
武器。
薬。
食料。
家。
まだまだ作りたいものはたくさんある。
そして、森の奥にはまだ知らない素材が眠っている。
「……もっと行ってみたい」
葵は焚き火の向こうに広がる暗い森を見る。
【夜間視力】があるため、暗闇の中でもある程度先まで見通せる。
そして今は――。
【気配察知】まである。
「明日は、もう少しだけ奥へ」
そう決めた葵は、静かな夜の中で明日の準備を始めた




