第3話 未知のスキル
「これからワシの〖神眼〗によって、皆の能力を確認させてもらう」
そう言ったのは、一人の老人だった。
白髪に長いローブ。
手には古びた杖。
老人の名は、セドリック・アーデル。
王国筆頭宮廷魔術師。
そして-
職業【鑑定士】の中でも最上位のスキル〖神眼〗の持ち主でもある。
最初に呼ばれた生徒が、セドリックの前へ進む。
セドリックが目を向ける。
「固有職【剣豪】スキル〖剣術〗〖剣気〗……」
「おお!」
周囲から声が上がる。
二人目。
「固有職【大魔導師】スキル……」
三人目。
「【竜騎士】」
次々と能力が判明していく。
そして。
「次。天城湊」
湊が前へ出た。
セドリックが彼を見る。
一瞬。
老人の目が見開かれた。
「……これは」
「何か?」
「……【勇者】」
広間がどよめいた。
「勇者!?」
「すごい!」
王国側の人間も明らかに喜んでいる。
国王も満足そうに頷く。
「素晴らしい」
湊は戸惑いながらも、
「……ありがとうございます」
と頭を下げた。
続いて。
「星咲優奈」
優奈が前へ出る。
鑑定。
「……【聖女】」
再び歓声が上がった。
優奈は困ったように笑う。
「私、本当にそんな……」
その様子を見て、葵は小さく笑った。
「二人ともすごいなぁ」
自分には何があるのだろう。
そんなことを考えていた。
そして。
「次」
名前を呼ばれる。
「一ノ瀬葵」
「……はい」
葵は緊張しながら前へ出た。
セドリックの〖神眼〗が、葵を捉える。
「……」
沈黙。
「……?」
葵が不安そうにセドリックを見る。
老人の眉間に皺が寄る。
「……おかしいのう」
「え?」
「固有職は……」
セドリックがもう一度鑑定する。
「…………」
そして。
老人の顔から血の気が引いた。
「【破壊神】……」
「……え?」
葵には、その言葉の意味が分からない。
しかし――。
周囲の反応は違った。
「破壊……神?」
「なんだ、それ」
「聞いたことないぞ」
セドリックは杖を握り直す。
「……固有職として記録された例が、わしの知る限り存在せぬ」
国王の表情が変わった。
「セドリック。続けろ」
「は、はい……」
セドリックはさらに鑑定を進める。
「スキル……〖暴食〗」
「……」
「〖検索〗」
「……?」
「〖保存〗」
「……」
「〖分割〗」
そして最後。
「〖破壊〗……」
セドリックは言葉を失った。
葵は困惑する。
「……あの、これって悪いものなんですか?」
返事はない。
セドリックは葵を見つめていた。
その目には、先ほどまでの穏やかさが消えていた。
恐怖。
警戒。
そして――困惑。
「……国王陛下」
老人が低い声で告げる。
「この者は……危険すぎますぞ」
葵の胸が締め付けられる。
(……また?)
修学旅行でも。
ここへ来てからも。
自分だけが、どこにも馴染めない。
そして今度は――。
「固有職【破壊神】を持つ者を、この王国に置いておくのは危険じゃ」
国王が静かに葵を見る。
その目に浮かんでいたのは――。
明確な敵意だった。
しばらくの沈黙。
そして。
国王が一際大柄な騎士へ視線を向けた。
「ガルド」
「はっ」
「この少女を西の森へ送れ」
ガルドと呼ばれた男が前へ出る。
王国騎士団総団長、ガルド・ヴァレンシュタイン。
身長は二メートル近くあり、分厚い肩幅と鍛え上げられた身体を、黒い鎧が覆っている。
厳つい顔には表情がほとんどなく、鋭い灰色の瞳だけが、まるで獲物を値踏みするように葵を見つめていた。
「……御意」
ガルドはそれだけ答えた。
葵の心臓が跳ねる。
「えっと……」
何か聞かなければ。
そう思った。
「西の森って……どんなところなんですか?」
ガルドは答えなかった。
代わりに、国王が口を開く。
「お前の能力は危険だ」
「我々には、その力がどのようなものなのか判断できない」
「でも……」
葵は言葉を探した。
「私、まだ何もしてません」
国王は少しも表情を変えなかった。
「だからこそだ」
「……?」
「何も分からぬ者を王都に置いておくわけにはいかん」
葵には、その理屈が理解できなかった。
「じゃあ……私、どうなるんですか?」
「西の森で暮らせ」
あまりにも簡単に言われた。
「森で……?」
「そこで生き、お前の力が危険でないことを証明するのだ」
葵は少し考える。
元の世界、日本の森ですら死と隣り合わせだ。
それが異世界の森ともなれば、どれほど危険が待っているかは計り知れない。
でも、今の葵には選択肢など無い。
「……分かりました」
その返事に、周囲は三者三葉の反応を見せる。
無関心な物。
嘲笑している物。
そんな中─
「待ってください!」
湊が国王の前へ出る。
「彼女を一人で森に送るなんて無茶です!」
ガルドが湊を見る。
「下がれ」
湊の声に力が入る。
「同じ学校の仲間なんです!」
「私も反対です!」
優奈も続いた。
「だって、葵ちゃんは何もしていません!」
優奈は真っ直ぐに国王を見る。
「それなのに、スキルが分からないというだけで追い出すなんて……」
周りに控えていた騎士たちが、二人に敵意の視線を向ける。
国王はため息をついた。
「勇者よ」
「……」
「お前には期待している」
「だったら――」
「だからこそ、余計なことに首を突っ込むな」
湊の表情が険しくなる。
「これは王国の決定だ」
湊は拳を握りしめる。
まだ自分のスキルを使いこなせるわけではない。
この場にいる騎士たちに勝てるとも思えない。
「……っ」
何もできない。
その事実が、湊自身にも分かってしまう。
優奈も同じだった。
固有職やスキル、日本にいた時とは全く違う。
何ができるのかすら分からない。
「………二人ともありがとう!」
葵は笑顔を作った。
本当は、怖い。
だけど。
自分のために声を上げてくれた二人を、これ以上困らせたくなかった。
「私、頑張ってみる」
葵はそう言った。
「森っていっても、もしかしたら普通に暮らせるかもしれないし」
湊は何も言えなかった。
優奈は唇を噛んでいる。
そして。
ガルドが葵の前に立った。
近くで見ると、さらに大きい。
葵は思わず見上げた。
「来い」
「……はい」
葵は小さく頷いた。




