↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
2/40

第2話 異世界



――白い。


何もない。


ただ真っ白な空間に、一ノ瀬葵は立っていた。


「……ここ、どこ?」


さっきまでバスに乗っていたはずだった。


クラスメイトの悲鳴。


巨大な魔法陣。


そして――。


死を覚悟したところで、意識が途切れた。


「みんなは……?」


葵は周囲を見回す。


誰もいない…


不安になって一歩踏み出した、そのとき。


頭の中に、声が響いた。


《転移処理を開始します》


「……え?」


どこから聞こえているのか分からない。


男でも女でもない。


感情の一切感じられない、淡々とした声。


《転移者を確認》


《肉体情報を確認》


《精神情報を確認》


「転移者……?」


葵が呟く。


すると、目の前に半透明の文字が浮かび上がった。


《転移先:異世界》


《転移を実行します》


「異世界!?」


無機質な声が次の言葉を紡ぐ。


《転移時の思考を解析します》


《最優先願望を確認》


《願望内容――》


葵の脳裏に、さっきの考えが蘇る。


――こんなに早く死ぬんなら、もっと美味しいものいっぱい食べておけば良かったなぁ。


「ちょ、ちょっと待って!」


《願望に適合する固有スキルを生成》


《固有スキル【暴食】を取得しました》


「え?」


葵は目を瞬かせる。


《次項目》


《思考情報から適合能力を抽出》


《固有スキル【検索】を取得しました》


《固有スキル【保存】を取得しました》


「えっ……?」


葵には何のことか分からない。


そして――。


最後の思考。


家に置いてきた自分のパソコン。


もし自分が死んだのなら。


あれだけは。


絶対に。


「お父さん、お母さん……どうか私のパソコンはハードディスクを抜いて、粉々のぐちゃぐちゃにして海に沈めて下さい……」


《特殊願望を確認》


「……」


《願望内容:対象物の完全破壊》


《適合する固有スキルを生成》


《固有スキル【破壊神】を取得しました》


「…………」


葵は無言になった。


「……そこまで拾うの?」


返事はない。


《スキル生成完了》


《異世界転移を開始します》


「え、ちょっと待って!」


《転移します》


「待ってって――」


足元が消えた。


身体が落ちる。


「きゃあああああっ!」


その瞬間、白い世界が弾けた。


⸻


「――っ!」


葵が目を開けると、最初に見えたのは巨大な天井だった。


「……ここ、どこ?」


ゆっくり身体を起こす。


自分は大きな円形の台座の上に寝かされていた。


周囲には、見たこともない文字や紋様が刻まれている。


壁には巨大な柱。


その奥には、色とりどりのステンドグラス。


まるで――。


「教会……?」


いや。


もっと大きい。


もっと荘厳で。


もっと現実離れしている。


そして。


「……え?」


周囲を見る。


人がいる。


何十人もの生徒たち。


「みんな……!」


葵は立ち上がった。


あちこちから声が上がる。


泣いている子。


混乱している子。


友達同士で抱き合っている子。


誰も状況を理解できていない。


「よかった……」


自分だけではない事に、葵は胸を撫で下ろした。


それだけで、少し安心した。


そして。


正面に並んでいる人々に気づく。


鎧を着た兵士。


豪華な服を着た男女。


杖を持った老人。


そして中央。


ひときわ豪華な衣装を身につけた男が立っていた。


男が一歩前に出る。


「異世界よりお越しになられた皆様」


その声が、広い部屋に響き渡った。


「ようこそ、ヴァルディア王国へ」


ざわめきが起こる。


「異世界?」


「ヴァルディア王国?」


「どういうこと?」


男は両手を広げた。


「私はこの国の国王、アルベルト・ヴァルディア」


国王。


その言葉に、生徒たちが息を呑む。


「皆様は、我々が召喚させていただきました」


「召喚……?」


「俺たちを?」


アルベルトは頷く。


「この世界には、我々人類を脅かす魔王が存在します」


その言葉に、場が静かになる。


「魔王は強大な魔物たちを従え、各地を侵略し、多くの命を奪っています」


そして、悲しげな表情を浮かべる。


「我々だけでは、魔王に対抗することができない」


もちろん。


その言葉のすべてが嘘というわけではない。


魔王が存在することも。


魔物が人間を脅かしていることも。


しかし――。


「そこで、異世界より皆様を召喚させていただきました。召喚されたものは、強大な力を得ると言われています」


アルベルトは微笑む。


「どうか我々と共に戦い、魔王を討ち、この世界に平和をもたらす勇者となっていただきたい」


生徒たちの間から、


「勇者……?」


「俺たちが?」


という声が聞こえる。


葵も呆然としていた。


異世界。


魔王。


勇者。


まるで物語の中の話だ。


けれど。


少し離れたところにいた湊が、真剣な表情で国王を見つめている。


優奈も不安そうに周囲を見ている。


そして葵は思った。


「……本当に、異世界なんだ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。