第28話 甘いスライム
葵は小屋の外で、新しく作った服の袖を眺めていた。
「うん。やっぱり魔獣糸って丈夫」
以前の制服とは比べ物にならない。
自分で作った服を着て森を歩く。
それだけで、少しだけ冒険者になったような気分になる。
「でも……」
葵は小屋を振り返った。
壁は木材を組み合わせただけ。
屋根にはところどころ隙間がある。
棚もまだ簡素なものしかない。
「もうちょっと、家を快適にしたいな」
そして武器にも目を向ける。
「武器も、もう少し丈夫にできたらいいんだけど」
そんなことを考えながら、葵は森へ向かった。
⸻
しばらく歩いていると――。
ぷるん。
「……?」
地面に、半透明の緑色をした何かがいる。
ぷるん。
ぷるん。
「……スライム?」
葵は少し距離を取った。
〖検索〗。
《対象:グリーンスライム》
《危険度:低》
《特徴:柔軟な身体を持つ》
「危険度は低いんだ」
葵はナイフを構える。
スライムが、ぴょんっと跳ねた。
「わっ!」
思ったより速い。
けれど、攻撃の動きは単純だった。
一度避ける。
もう一度避ける。
そして――。
「そこ!」
ナイフを突き込む。
スライムの身体が大きく揺れた。
ぷるぷる……。
そして、動かなくなる。
《討伐を確認》
《経験値を獲得》
「よし」
葵は〖分割〗を使った。
すると、スライムの身体がいくつかの素材へと分かれる。
「……これが肉なのかな?」
不思議な半透明の塊を手に取る。
〖検索〗。
《グリーンスライムの核》
《食用:不可》
《魔力を蓄積する性質を持つ》
「核は食べられないんだ」
そして、その隣に残ったぷるぷるした部分。
《グリーンスライムゼリー》
《食用:可能》
《味:甘味》
《食感:弾力性・柔軟性》
《推奨:生食》
「……え?」
葵は目を丸くした。
「甘いの?」
もう一度確認する。
《味:甘味》
「……」
葵はゼリーを見つめる。
魔物。
スライム。
でも――。
甘い。
「……食べてみよう」
恐る恐る一口。
ぷるん。
「……!」
もちっ。
「……!」
葵の目が輝いた。
「何これ!」
ぷるぷるした食感。
噛むと少し弾力があって、ほんのり甘い。
「グミみたい!」
もう一口。
「……美味しい!」
今まで食べてきた魔物肉とは、まったく違う。
デザートみたいだ。
「スライムって甘いんだ……」
葵は夢中になって食べる。
そして――。
《〖暴食〗が発動しました》
《対象からスキルを獲得しました》
《〖粘着〗》
「……粘着?」
葵は表示を見つめる。
〖検索〗。
《〖粘着〗》
《任意の対象に粘着性を付与する》
《付着力・持続時間は使用者の魔力に比例》
「くっつけるスキル?」
葵は近くに落ちていた小枝を二本拾った。
片方に触れる。
「〖粘着〗」
ペタッ。
二本の枝がくっついた。
「……!」
軽く引っ張る。
取れない。
「すごい……!」
さらに力を入れる。
ミシッ。
枝そのものが折れそうになる。
「これ、接着剤みたいに使えるじゃん!」
⸻
小屋に戻った葵は、早速〖粘着〗を試してみることにした。
まずは棚。
今まで紐で固定していた部分を、木材同士で組み合わせる。
「ここを……」
〖粘着〗。
ギュッ。
「おお……!」
しっかり固定される。
次に、壁。
隙間に木材を当てる。
〖粘着〗。
「これなら風が入りにくくなる!」
屋根も補強する。
床も、ぐらついていた場所を固定する。
「……すごい」
今までよりずっと丈夫になった。
「〖粘着〗、めちゃくちゃ便利!」
そして最後に、武器を見る。
木材と魔物素材を組み合わせる。
〖粘着〗。
ギュッ。
「これなら、前より丈夫そう」
もちろん、何でも永久にくっつくわけではない。
強い衝撃を受ければ剥がれる可能性もある。
「でも、これなら色々作れそう」
葵は新しいスキルを手のひらに感じながら、嬉しそうに笑った。
そして――。
「それに……」
〖保存〗の中に入れたスライムゼリーを思い出す。
「甘いもの、また食べたいな」
肉料理だけだった食生活に、思いがけずデザートが加わった。
「スライムにも色んな種類がいるのかな……」
もし種類によって味が違うのなら。
「……探してみたい」
葵の頭の中に、新たな探索理由が生まれた。
強くなるため。
素材を集めるため。
そして――。
美味しいものを食べるため。
「明日も探索しようっと」
葵は満足そうに笑った。




