第27話 ヴァルディア王国~初めてのダンジョン~
王城。
この日、クラスメイトたちは初めてのダンジョン攻略へ向かうことになっていた。
これまで彼らは、王国の騎士たちから剣や魔法の基礎を教わっている。
最初は戸惑っていたものの、何日も訓練を続けたことで、簡単な魔物なら戦える程度にはなっていた。
そんな中――。
「湊、優奈」
二人の前に、一人の騎士が立っていた。
「お二人は今回のダンジョン攻略には参加されません」
「……え?」
湊が聞き返す。
「俺たちは行かなくていいんですか?」
「はい」
騎士は当然のように答えた。
「お二人の実力は、既に素晴らしいものです。無理に実戦へ出る必要はありません」
「でも……」
湊は、ダンジョンへ向かうクラスメイトたちを見る。
「みんなは行くんですよね?」
「ええ。皆様には実戦経験を積んでいただきます」
「……そうですか」
湊は納得しきれない表情を浮かべる。
隣にいた優奈も同じだった。
「私たちだけ、ここに残っていいんでしょうか?」
「もちろんです」
騎士は微笑んだ。
「お二人は、この国にとって特別な存在ですから」
その言葉に、湊は少し複雑な気持ちになった。
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やがて、クラスメイトたちを乗せた馬車が出発する。
「じゃあ、行ってくる!」
「気をつけてね!」
「おう!」
笑顔で手を振る者もいれば、不安そうな顔をしている者もいる。
湊と優奈は、城門からその姿を見送った。
「……大丈夫かな」
優奈が呟く。
「訓練はしてるし、最初の階層なら大丈夫だと思う」
湊はそう答えた。
けれど――。
なぜか胸の奥に、嫌な予感が残っていた。
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一方、ダンジョン。
地下へ続く巨大な入口を前に、クラスメイトたちは緊張していた。
「ここが……ダンジョン」
薄暗い入口。
その先から、冷たい空気が流れてくる。
「怖いな……」
「でも、訓練しただろ」
「そうだよ。俺たちだって少しは戦える」
騎士が先頭に立つ。
「隊列を崩すな!」
「はい!」
クラスメイトたちは武器を構え、ゆっくりと中へ進んでいった。
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最初に現れた魔物は、それほど強くなかった。
「来るぞ!」
「訓練通りに!」
一人の男子生徒が剣を振るう。
ガキンッ!
魔物の攻撃を受け止める。
「今だ!」
別の生徒が横から攻撃する。
「やった!」
魔物が倒れた。
「……倒せた」
最初は恐怖で震えていた。
けれど、実際に戦ってみれば倒せる。
「俺たち、結構やれるんじゃない?」
そんな空気が少しずつ広がっていった。
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しかし――。
階層が進むにつれて、状況は変わっていった。
魔物が強くなる。
数も増える。
「くそっ……!」
一人の生徒が攻撃を受け、腕を押さえた。
「大丈夫か!?」
「……大丈夫。まだ戦える」
「無理するな!」
そう言いながらも、先へ進まなければならない。
「まだ進むぞ!」
騎士の声が響く。
「え……?」
「予定していた階層まで到達する!」
疲労している生徒たちの顔に、不安が浮かんだ。
「でも、もう結構……」
「勇者様方が待っているのだ。成果を持ち帰れ」
「……」
誰も逆らえなかった。
⸻
その頃、王城。
湊と優奈は、まだ戻ってこないクラスメイトたちを待っていた。
「遅いね……」
「うん」
時間が経つ。
日が傾き始める。
「……大丈夫かな」
優奈が心配そうに呟いた、その時。
城門の向こうから、馬車が見えた。
「帰ってきた!」
湊が立ち上がる。
二人は城門へ向かった。
そして――。
「…………え?」
湊の足が止まった。
馬車から降りてきたクラスメイトたちは――。
ボロボロだった。
制服は破れ、身体には血が滲んでいる。
肩を借りながら歩く者。
腕を吊っている者。
足を引きずっている者。
中には、自分で歩くことすらできず、騎士に運ばれている者までいた。
「……何があったんだ?」
湊が駆け寄る。
「おい!」
「……湊……」
友人が弱々しく顔を上げる。
「大丈夫か!?」
「……大丈夫。ちょっと……怪我しただけ」
そう言うものの、その顔には明らかな疲労が浮かんでいる。
優奈も周囲を見回す。
そして――。
「あれ……?」
何かがおかしい。
「人数……少なくない?」
湊も気づいた。
「……」
出発したときより、明らかに人数が少ない。
「なあ……他のみんなは?」
誰も答えない。
その場に重い沈黙が落ちた。
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「多少の負傷者は出ましたが、初回の攻略としては順調です」
背後から騎士の声が聞こえた。
湊が振り返る。
「……順調?」
「はい」
「これが?」
湊は、血だらけになったクラスメイトたちを見る。
「こんなになるまで戦って……それが順調なんですか?」
騎士は一瞬だけ黙った。
「実戦とは、そういうものです」
「…………」
湊は何も言えなかった。
優奈も、ただクラスメイトたちを見つめている。
今までなら――。
「訓練の一環だから仕方ない」
そう思っていた。
でも。
今日の光景を見てしまった今は、そう簡単には考えられない。
なぜ、俺たちは行かなくてよかった?
なぜ、他のみんなはこんなになるまで戦わされた?
そして――。
なぜ、戻ってきた人数が減っている?
二人の胸の中に、小さな疑念が芽生え始めていた。
それはまだ、確かな疑いですらない。
ただの違和感。
けれどその違和感は、やがて――。
王国そのものへの疑念へと変わっていくことになる。




