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第26.5話 料理道具を作ろう

森の中での生活にも、葵はすっかり慣れてきていた。


最初の頃と比べれば、生活環境はかなり良くなった。


けれど――。


「…………」


葵は、食事をしながら自分の手元を見つめる。


今は、探索中に集めた大きな葉っぱを器代わりにし、食べるときも、基本的には手や簡単な木片。


肉やキノコを焼く時は、木の枝に刺しそのまま炙っている。


「そろそろちゃんとした食器作れないかな…」


そう思い、葵はいつものように森へ向かった。


「箸とスプーンとフォーク……あと、器も作りたい」


葵は森を歩きながら、使えそうな木を探す。


〖検索〗を使いながら、木の硬さや加工のしやすさを確認していく。


「……あ、これ良さそう」


そこに生えていたのは、灰褐色の木。


表面は硬いが、中は比較的加工しやすい。


しかも水に強い。


〖検索〗で調べてみる。


――【グレイウッド】

――硬度:中

――耐水性:高

――加工しやすく、食器・家具・道具などに適する。


「これだ!」


葵はさっそく使えそうな枝や木材を集め、〖保存〗に入れていく。


「問題は料理するための道具だよなぁ」


……探そう


葵はさらに森の奥へ進んだ。


⸻


鍋の材料を探して


「金属……金属……」


葵は〖検索〗を使いながら、周囲を調べる。


普通の石。


砂。


粘土。


鉱石。


いくつかそれらしいものは見つかった。


しかし――。


「これ、熱に弱い」


「これは加工できない」


「これは熱は通すけど、割れやすい……」


なかなか理想的な素材が見つからない。


「異世界なんだから、鍋に使える変な素材とかないのかな……」


半ば諦めかけた、そのとき。


「……ん?」


地面の一角に、不自然な色の石が落ちていた。


黒に近い灰色。


けれど、表面には赤い筋のような模様が入っている。


「なんだろ、これ」


葵は拾い上げる。


〖検索〗。


――【ヒートメタル鉱】

――高い熱伝導性を持つ特殊鉱物。

――熱による劣化が少ない。

――魔力を通すことで加工しやすくなる。

――調理器具や熱を扱う道具の素材として利用可能。


「…………」


葵の目が輝いた。


「これじゃん!」


まさに探していた素材だった。


「熱を通して、熱にも強い……」


しかも。


「魔力で加工できるってのが、いまいち分からないけど…とりあえず集めてみよう!」


葵は周囲を探し、いくつかの鉱石を見つける。


大きな塊もある。


「これだけあれば……鍋とフライパンくらい作れそう」


葵は嬉しそうに鉱石を〖保存〗した。


⸻


家に戻った葵は、集めた素材を並べた。


「よし!」


まずは木製の食器から。


ナイフで木材を削り、形を整える。


「……箸はこうで……」


一本一本、長さを揃えていく。


「スプーンは……このくらいの深さかな」


削って、丸みをつけてさらに削る。


「フォーク……」


先端を細く加工していく。


「できた!」


並べてみる。


「……なんとか、形になったかな」


⸻


「菜箸も作っておこう」


葵は少し長めの箸を作る。


さらに――。


「お玉も欲しい」


木材を削って、長い柄をつける。


丸く削った部分を深くしていく。


「……こんな感じかな?」


簡易的ではあるが、お玉らしい形になった。


「よし!」


これで料理がさらに楽になる。


⸻


最大の難関


そして――。


「問題は……これ」


葵の前に置かれているのは、ヒートメタル鉱。


「鍋……作れるかな」


葵は〖検索〗で何度も性質を確認する。


高温に強い。


熱伝導性も高い。


そして、魔力を通すと加工しやすくなる。


「魔力を通すってどうすればいいんだろう…」


葵は試しに、ヒートメタル鉱を持ちながら魔糸創生を使う時のように、指先に意識を集中させる。


すると、今まで硬かったヒートメタル鉱がぐにゃりと形を変え、粘土の様な柔らかさになる。


「きゃっ!」


驚いて手を離すと、葵の指の跡が残る形のまま地面に落ちる。拾い上げてみると、また元の硬さに戻っていた。


「不思議…」


葵は再度ヒートメタル鉱に魔力を通し、粘土程の硬さになった部分から、鍋の形になるよう丁寧に整える。


鍋の底を平らに。


側面を立ち上げる。


縁を整える。


そして――。


「……できた!」


歪んではいる。


市販品のように綺麗ではない。


それでも。


「鍋……!」


葵にとっては立派な鍋だった。


⸻


フライパン


「あと……フライパン!」


ここまで来たら止まれない。


もう一つのヒートメタル鉱に魔力を通す。


薄く。


平たく。


少しだけ縁を立ち上げる。


最後に柄を取り付ける。


「……よし」


葵は完成したフライパンを持ち上げた。


「できた……!」


鍋とフライパン。


さらに木製の箸、菜箸、スプーン、フォーク、器、お玉。


全部並べてみる。


「…………」


葵はしばらく無言で眺めた。


そして――。


「……なんか、ちゃんとした生活してる感じがする」


森に放り出された直後には、想像もできなかった。


少しずつだけれど。


葵の生活は、確実に「暮らし」へと変わっていた。


⸻


「疲れた〜……」


葵はその場に座り込んだ。


「今日はもう何もしたくない……」


そう呟きながらも。


目の前に並ぶ自作の道具を見て、少しだけ笑った。


「……でも、作ってよかった」


森の中での生活は。


今日も少しだけ、快適になった。

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