第26話 今の私
小屋へ戻った葵は、今日手に入れた素材を並べていた。
「フォレストモンキーの毛……結構柔らかいな」
毛を〖保存〗へしまい、次に肉を取り出す。
「これは……」
フォレストモンキーの肉。
「食べられるって〖検索〗には出てたけど……」
葵は少しだけ不安そうに肉を見る。
猿の魔物。
元の世界で猿の肉を食べる機会なんて、まずない。
「……でも、魔物だし」
今までだって、色々な魔物を食べてきた。
「食べられるなら、食べてみよう」
葵は肉を一口大に切る。
採取したミストリーフと薬草を刻み、塩と胡椒を振る。
焚き火でじっくり焼く。
ジュウゥ……。
香ばしい匂いが広がる。
「……思ったより美味しそう」
表面がこんがり焼けたところで完成。
「いただきます」
恐る恐る口に入れる。
「……!」
葵の目が丸くなる。
「美味しい」
思っていたよりずっと柔らかい。
少し鶏肉に近い味だ。
「普通に美味しいじゃん!」
葵は嬉しそうに食べ進める。
そして最後の一口を飲み込んだ瞬間――。
《〖暴食〗が発動しました》
《対象の特性を解析》
《特性を獲得しました》
《【身体柔軟性】》
「……身体柔軟性?」
葵は表示を確認する。
〖検索〗。
《【身体柔軟性】》
《身体の柔軟性が向上します》
《関節の可動域が僅かに拡大します》
「へぇ……」
葵は立ち上がり、身体を動かしてみる。
前屈。
腕を回す。
足を上げる。
「……なんか、身体が軽い?」
ほんの少しだけだが、今までより身体が動かしやすい。
「フォレストモンキーって、木の上をあんなに動き回ってたもんね」
なるほど、と葵は納得する。
「食べると、その魔物の特徴が手に入る……」
最初は偶然だと思っていた。
でも、これまで手に入れてきた特性を考えれば、もう偶然ではない。
ブラックウルフからは身体能力に関係する特性。
スモールリザードからは【自己再生】。
そして今回のフォレストモンキーからは【身体柔軟性】。
「……〖暴食〗って、本当にすごい」
葵は自分の手を見つめた。
「そういえば……」
ここへ来てから、一度も自分のステータスをちゃんと確認していない。
「最初に見たときから、かなり変わってるよね」
葵は〖検索〗を使う。
「自分のステータスを表示」
⸻
【名前】一ノ瀬 葵
【固有職】破壊神
【種族】人族
【レベル】14
【体力】340
【魔力】225
【筋力】245
【敏捷】285
【耐久】205
【魔法適性】D
【スキル】
〖暴食〗〖検索〗〖保存〗〖分割〗〖破壊〗
【獲得特性】
【夜間視力】【嗅覚強化】【敏捷性向上】
【跳躍力強化Ⅱ】【動体視力強化】【環境適応Ⅱ】
【視力強化Ⅱ】【平衡感覚強化】
【自己再生Ⅱ】【身体柔軟性】【魔糸創生】
⸻
「…………」
葵はしばらくステータスを眺めていた。
「……強くなってる」
最初にこの世界へ来たときとは、比べ物にならない。
けれど――。
「これって、どのくらいなんだろう?」
数字だけでは分からない。
一般的な人間のステータスを知らないからだ。
「まあ……強くなってるならいいか」
葵は深く考えないことにした。
そして、もう一度ステータスを見る。
レベル14。
体力も、魔力も、身体能力も。
最初とは比べ物にならない。
「……私、ちゃんと強くなってるんだ」
魔の森に置き去りにされたあの日。
何もできず、ただ怯えていた自分。
それを思い出す。
「……あの頃よりは、ずっとマシだよね」
葵は小さく笑った。
そして、ステータス画面を閉じる。
「よし」
明日も探索だ。
もっと素材を集めて。
もっと色んなものを作って。
もっと強くなる。
「……魔の森、まだまだ探索しきれてないしね」
焚き火に薪をくべる。
赤々と燃える炎を眺めながら、葵は静かに夜を過ごした。




