第21話 まだ見ぬ素材
葵は小屋の前に、昨日集めた素材を並べていた。
「これは繊維で……こっちは食料」
〖保存〗の中身も、いつの間にかかなり増えている。
「ちゃんと整理しないと、後で大変なことになりそう」
素材を種類ごとに分けながら、葵はふと思った。
「そういえば……夜、ちょっと暗いんだよね」
魔の森で夜を過ごすとき、葵はいつも焚き火を使っている。
火が消えないように薪をくべながら、何とか夜を凌いでいた。
「もう少し明るくできるものがあればいいんだけど……」
そんなことを考えながら、葵は立ち上がった。
「今日は、明かりに使えるものも探してみよう」
⸻
いつもの探索場所を越え、さらに森の奥へ進んでいく。
木々が少しずつ密集し、昼間なのに薄暗い。
「この辺りは、ちょっと雰囲気が違うな……」
葵は〖検索〗を使いながら、周囲を注意深く見ていく。
すると――。
「あれ?」
木の幹に、青白く光るものが付着している。
近づいてみると、それは淡い光を放つ苔だった。
「これ……苔?」
〖検索〗。
《素材:ルミナ苔》
《特徴:微弱な発光性を持つ》
《用途:照明・染料・魔道具素材》
「発光するんだ!」
葵は目を輝かせる。
「これなら夜の明かりに使えるかも」
魔道具なんて作れなくても、何かに貼り付けたり、集めて置いておくだけでも多少は明るくなるかもしれない。
「試す分だけ持って帰ろう」
必要な分だけ採取し、〖保存〗する。
「これで夜がちょっと楽になるかな」
⸻
さらに進む。
今度は、木々の間に赤茶色の蔓が絡みついているのを見つけた。
〖検索〗。
《素材:レッドバイン》
《特徴:乾燥後も高い強度を維持》
《用途:紐・籠・織機・建築素材》
「おお……!」
昨日見つけた素材より、さらに使い道が多そうだ。
「籠も作れるんだ」
今まで採取した素材は、ほとんど〖保存〗に入れていた。
便利ではあるけれど、手元に置いておける収納もあった方がいい。
「これで籠を作ったら、素材の整理にも使えそう」
葵はレッドバインも採取した。
⸻
さらに森の奥へ進む。
しばらくすると――。
葵は地面に残された、大きな足跡を見つけた。
「……何これ?」
明らかに、今まで見てきた魔物より大きい。
葵は少し距離を取ってから〖検索〗を発動する。
《対象:不明》
《情報不足》
《対象の詳細を取得できません》
「……え?」
いつもなら魔物の名前や危険度が表示される。
それなのに、今回は何も分からない。
その瞬間――。
「…………」
――グルルル……。
遠くから、低い唸り声が聞こえた。
葵の身体が強張る。
〖検索〗。
《周辺の魔物反応:複数》
《危険度:判定不能》
「…………」
葵は音のした方向を見る。
木々の向こう。
何かがいる。
けれど、姿は見えない。
「……今日は、ここまで」
以前の葵なら、好奇心のまま進んでいたかもしれない。
でも、魔の森で生きてきたことで分かっている。
分からないものには、近づかない。
「もっと強くなってからにしよう」
葵は静かに来た道を戻った。
⸻
小屋へ戻ると、採取した素材を並べる。
「ルミナ苔に、レッドバイン……」
そして、あの大きな足跡を思い出す。
「〖検索〗でも分からない魔物……」
少し怖かった。
でも同時に――。
「……ちょっと気になる」
葵は森の奥を見る。
「いつか、もっと強くなったら行ってみよう」
そして、採取したルミナ苔を焚き火の近くに置いてみる。
淡い青白い光が、ほんのりと周囲を照らした。
「……おお」
焚き火だけだった小屋の周りが、少しだけ明るくなる。
「これ、いいじゃん」
葵は嬉しそうに笑った。
魔の森での生活は、少しずつ便利になっている。
「次は……何を作ろうかな」
焚き火の炎とルミナ苔の淡い光に照らされながら、葵は明日のことを考えていた。




