68、そうして
お父様は近衛騎士に連行されて部屋を出ていく。
伯爵夫人とお義姉様がその後に続いた。
絶望に染まるお義姉様の瞳が痛かった。
初めて会ったのは夜会。そしてその一度きり。
睨みつけられ、蔑まれた。
それでも、あの時の瞳の方が痛くはなかった。
「……ミレーニア嬢」
ルシアン様の手が、ミレーニアの手に触れた。
その温かさに縋るようにぎゅっと握り返す。
(私は……忘れない)
あの目を。
忘れてはいけない。
どんなに正当な訴えだったとしても、ミレーニアは義姉の人生を壊したのだ。
お父様のことはどうでもいい。これはあの人が積み上げた全てだ。あの人自身が選んだ人生だ。
でも、お義姉様は違うのだ。
「ミレーニア・ド・ヴェルナレット」
陛下が自分の名を呼んだ。
今更ながら自分が陛下に背中を向けていたことに気づく。
慌てて振り返れば、先ほどとは違い、柔らかな視線が向けられていた。
「……この十年、いや、そなたは八年か、ヴェルナレット領をよく支えてくれた」
「あの……私は」
答えようとしたところで、ルシアン様の手がくいっとミレーニアの手を引く。
驚いて彼を見れば首を左右に振られて、喋ってはいけなかったのだと悟る。
「……良い。そなたは自由に発言をすれば良い。それから、ルシアン・ド・クレヴォワール」
「……はい」
「余の前で手を繋いだままとは面白いなぁ」
くくっと笑っている姿は先ほどの冷酷な印象とは大きく違う。
「失礼いたしました」
ルシアン様はそう返したが、その手が離されることはない。
なおさら可笑しそうに陛下は笑う。
「ヴェルナレット嬢、本当にご苦労であった」
「いえ……それはコルヴァンさんが……」
そう言ってコルヴァンさんを示すも、コルヴァンさんは首を左右に振っていた。
「アレと血が繋がっているとは思えぬな」
「……?」
「コルヴァン・マルソー、そなたも若き……いや、幼き娘をよく支えてくれた」
「……陛下、発言を許可頂けますか?」
コルヴァンさんが頭を下げる。
それに陛下が鷹揚に頷いた。
「わたくしがすべての発端です。幼いミレーニア嬢を私生児と認めさせ……」
「その話なら報告を受けている。それ以外に方法が無かったのであろう?容易く罰を得ようとするな」
「……ですが!」
陛下は静かに手を挙げ、コルヴァンさんの訴えを制した。
そして――
「若き当主にはそなたの力が必要であろう?」
そう告げたのだった。




