61、女神の出陣
――大丈夫ですか?
女神だ、とロランは思った。
ロランは父コルヴァンから話を聞き、奪うように手紙を手にした。
そして馬を休ませることなく、クレヴォワール侯爵領へと向かった。
夜道は危なかろうが、何だろうが、そんなことは関係ない。
この手紙ひとつで、救われるのなら。
領地のことなんて正直どうでもいい。
あの子が、彼女が、救われるのならそれでいい。
幸いなことに月が出ていた。
足止めされる原因になるものはなにもなかった。
あとは自分と馬の、体力と気力だけ。
馬を宥め、意識が飛びそうになる自身を叱咤し、
そうして辿り着いたのだ。
朝日の元で見たのは、女神の姿だった。
神々しいプラチナブロンド。
どこかで見たようなアイスブルーの瞳。
そこでようやく、この女神がルシアン様の姉君、セラフィーヌ・ド・クレヴォワールだと気づいた。
「あぁ……ルシアンからの手紙ですか」
そっと受け取ってくださった指先は、あたたかい。
「セラフィーヌ。セラ。見知らぬ男から物を受け取らないでくれ」
「……エリオス様。こちらはルシアンからの使者です」
「そうなのか……って死にそうだな」
「死なせないでください」
誰かに引っ張られていく。
彼女に手紙を届けられた。
もう大丈夫なはず。
「……何が書いてあった?」
「結界石が欲しいと」
「……これは陛下へ報告が必要そうだな」
「ええ……書類は全て揃っていますか?」
「勿論、揃っているよ」
「では、行きましょうか?」
「君が?」
「当然です。許せませんもの」
「……そうだな」
「ずっと腹が立ってました」
「よく我慢した」
「ええ、でも我慢の必要はもうありません」
「ルシアン君は選んだのか?」
「……それは分かりませんけど」
――でも、あの子が素直に助けを求めてきたんです。
助けるのは当然でしょう?
女神の声は、ひどく優しかった。




