54、銀の騎士とその魔術師
呼び出された隊員たちは、目の前の色男に目を奪われていた。
まぁそうなるだろうな、と思う。
バルドだって驚いたのだ。
馬車から降りてきた男が、おそろしいほどに綺麗で。
その長い銀の髪を、風に揺らめかせる姿は生まれの違いを感じさせた。
「……あの、バルド隊長?」
おそるおそる隊員から声を掛けられる。
呼び出したのだから、説明しないといけないだろう。
「あ~銀の騎士だ」
「違う……ルシアンだ」
銀の騎士のはずの男は、どういうわけかその呼び名を嫌がる。
意味が分からないが本人がそう言う以上、とりあえず呼び名はルシアンとなる。
「ルシアン、悪いが人が集まりそうにない」
ここのところの魔物討伐で怪我をしたものもいる。
それから農作業と兼任の者たちも。
「……一、二、三……」
ルシアンは律儀に数え始めた。
その様子を見て、魔術師がくくっと笑っている。
魔術師は従者だと聞いていたのだが、とてもそうは思えない。
ずいぶんと気安い関係に見える。
「十人か……少ないな」
ルシアンはそう呟きながら、まだ隊員たちを見ている。
おそらく防具や武具も確認しているのだろう。
だが、無いものは無い。
「なんとかできるか?」
バルドはルシアンではなく、魔術師に確認する。
だが、彼はバルドの視線を一瞬受け止めただけ。
不可思議な色の眼は、ルシアンを見ていた。
「こんなことなら、長槍でも担いで来ればよかった」
ルシアンがぼそりと呟く。
腰に差しているレイピアは、なんなのか?
その顔……いや、顔は関係ないとして、その細身の体では長槍は無理だろう。
それなのに、魔術師は床に置いていた大剣を指さし、提案したのだ。
「そこの男の大剣を借りたら?」
「いや、バルド殿が困るだろう」
「……これが持てるのか?」
とてもそうは思えない。
「貸してくれ」
そう言うが早いか、ルシアンは大剣の柄を握る。
そして、軽々と持ち上げたかと思うと、そのまま振った。
「うん、ちょうどいい」
満足そうに微笑む姿は非常に美しいが、なんか違わないか?
うちの隊員が剣圧で吹っ飛びそうになったんだが?
「だが、俺がバルド殿の剣を使ったら……」
「大丈夫だよ。その男、魔法師だし」
その瞬間、隊舎の空気が固まる。
静まり返る中、ルシアンがパチパチと瞬きを繰り返した。
「……さっき魔法師はいないって」
「金が無いからな。それにもともと魔法師だったわけじゃない、気づいたら魔法陣を操れるようになっただけだ」
半分嘘だった。
魔法師でなかったのはその通りだが、領地の苦境を何とかできないかと、必死に習得したのだ。
魔物討伐は、魔法師がいるだけで、いや魔法陣が扱えるだけで、格段に楽になる。
だから、かつて魔法師だったアナスイさんに教えてほしいと頼んだのだ。
なるべく彼女の体調の良い時に顔を出し、無理をさせない程度に。
(……いや、無理はさせただろうな)
それでもバルドを含め、皆が必死だった。
ちいさな、ちいさな、ひぃさんが、領地を駆けまわって、領地のために働いて。
そんな姿を見させられて、大人が何もしない訳にはいかない。
「魔法師の登録はしてないってことだよね?」
魔術師の軽やかな声が、冷たく響く。
隊員たちは皆、下を向いている。
誰も真実なんて言いたくない。
だが、嘘はすぐにバレるだろう。なにせ相手は魔術師だ。
それに、バルドたちはこれから魔物討伐に向かう。魔法陣に頼らなくてはいけない。
「……そうだ。魔法師として登録すれば、給金が高くなるからな」
三度目のそれを告げれば、ルシアンはため息を吐いた。
俺たちの状況をどう見ているのか。
(……ダメだな。アイツのせいでどうしてもお貴族様に攻撃的になってしまう)
ひぃさんの父親。この地の本当の領主。
最低な男と、ひぃさんが連れてきた男を一緒にするのは違うだろう。
まして、前線で共に戦おうとしているのだから。
「言っとくが、ひぃさんは勿論、コルヴァンさんもロランも、俺が魔法師とは知らないからな」
「……」
「それから隊員たちには俺が黙るよう無理やり命令している」
「……っ!!」
「バルド隊長!!」
ざわざわとする空気。
余計なことを言わせない為にも
「でもよく分かったな」
そう魔術師に問えば
「結界の魔法陣に君の魔力がこびりついていた」
と返された。
その発言に、隊員たちの動揺が魔術師の方に向く。
ルシアンの説明はしていたが、魔術師についてはまだ紹介していなかった。
詰所内の空気が変わる。
魔術師に対する期待が静かに満ちていく。
ルシアンも魔術師も、その空気を元に戻すつもりはないようだ。
(……これが片付いたら)
バルドは、ぐっと目に力を入れる。
もし本当に結界が修復されるなら。
それも一時的ではなく、永久的に修復されるのであれば。
(罪に問われようが、どうでもいい)
魔法師として登録をしなかったのだ。
義務を果たさず違反行為ともいえるそれを問われるのは当然だ。
脳裏に浮かぶのは、ひぃさんの笑顔。
領地のみんなの顔。
もっと力になりたかったと思う。
まだまだやりたいことはあった。
だけど後悔はしていない。
バルドは、ルシアンたちに視線を向けた。
彼らがいるのだ。
きっと大丈夫なはずだ。
バルドは大剣をルシアンに預けたまま、隊員たちを見渡した。
そして、腹に力を込める。
「これから、魔生地の討伐に向かう」
いつものように、そう宣言した。




