52、家令とその息子
「お嬢さま……」
酒場から騒ぎを聞きつけたのか、一人の老紳士が姿を現した。
その後ろにはよく似た男の姿。おそらく親子なのだろう。
二人ともルシアンに抱き寄せられているミレーニア嬢をジッと見つめている。
ミレーニア嬢を見れば、唇を噛みしめ泣きそうになるのを堪えているようだった。
そっと腕の力を緩める。
しかし、ミレーニア嬢は動かない。
ルシアンの腕にすがりついたまま、それでも視線は二人に向けられている。
「……なんで……どうして……?」
振り絞るような声に、緩めた腕に力を込めようとしたところで、
「なんで!!どうして教えてくれなかったの!!」
悲痛な叫び声が、辺りに響き渡った。
「そしたら、ここに戻ってきて、頑張ってなんとか……」
そこでミレーニア嬢の声が弱まった。
「……私じゃ何もできなかった?」
胸を突く声。
「……申し訳ありません」
老紳士が頭を下げた。
後ろにいた男が、一歩一歩ミレーニア嬢に近づき、膝をつく。
それから、彼女の両手をそっと握った。
「その通りです。お嬢様のお力では何もできません」
「……っ」
「今回ばかりは、どうしようもありません」
男はそれだけ言うと立ち上がり、今度はルシアンを見た。
「貴方が銀の騎士ですか?」
「……一応」
「一応?」
「ギルドからの依頼書だ」
ギルドのサインが入った依頼書を男に渡す。
「何があったか聞いてもいいか?」
「勿論です」
そう返した男は酒場へと足を向けたのだが、不意に止まり、こちらを振り返った。
「バルド隊長、彼らを案内しても良いですか?」
「まぁ……そうだな。現地に行くのが一番早いだろう」
男とバルド隊長が並んで歩く。
ルシアンはその後ろについて行く。
小さく震えているミレーニア嬢の手を握り。
彼女の重くなりそうな一歩を支えるように、そっと背中に手を当てた。




