44、幕間―女神の願い
「セラ?セラフィーヌ?」
名前を呼ばれて、振り返れば心配そうに自分を見る眼差しに気づく。
そんなにひどい顔をしていただろうか?
「……ごめんなさい」
心配をかけたことを謝るが、彼はゆっくりと首を左右に振った。
「どうした?」
向かいにソファがあるというのに、彼は座ろうとしない。
後ろからセラフィーヌを抱きしめてくる。
その腕はいつだって温かい。
「……ルシアンが、調査を依頼してきたわ」
彼の眉がわずかに持ち上がる。
「どうするんだい?」
腕が解かれたかと思うと、彼はセラフィーヌの前へと回り込んだ。
伸びてきた腕に、ふわりと抱き上げられる。
下ろされた膝の上、甘えるように体を預けた。
「そうね……」
答えなんてたった一つしかない。
それでも躊躇するのは。
「あの子はどうする気なのかしら」
あの子が出す答えがなんなのか。
どういうつもりで調査を依頼してきたのか、まるで分からない。
それが怖い。
「……セラフィーヌ」
やさしく頭を撫でられて。
何も考えたくなくなる。
けれど、そういうわけにはいかない。
「私がやろうか?」
低い声が心地よい。
それでもいいのかもしれない。
セラフィーヌよりも、彼の方が遥かに優秀だ。
それに、あの子自身が、この人の力を借りてもいい――借りたいとまで言ってきた。
「……お願いするわ」
「分かった」
話が終わっても、このままでいたい。
ゆりかごのようにやさしくて、温かくて。
でも。
セラフィーヌは立ち上がる。
それを助けるように、彼の大きな手が支えてくれる。
「私の報告書をまずは送るわ」
あの子は逃げないことを選んだのだ。
それなら、セラフィーヌも逃げるべきではない。
「それこそ、私が惚れたセラだ」
ふわりと微笑まれて。
セラフィーヌも微笑み返す。
机の引き出しにしまった、あの報告書を取り出した。
とんとん、と紙の束を整える。
(……どうか、あの子の想いが救われますように)
傷つかないように、というのはもう遅いのだろう。
きっとあの子はすでに傷ついた後だ。
それでも、ここまで来た。
辿り着いた。
その先のすべてが、救いであってほしい。
あの子にとっても。
そして――
ヴェルナレット嬢にとっても。
どうか。
……これ以上傷つくことがないように。




