22、幕間―揺れる灯
ベルモン商会との契約書を、机の引き出しに仕舞う。
契約については、姉上に報告し承諾を得ている。
小規模ながら堅実な商会らしく、問題なしと判断されたようだ。
――ベルモンさん!!
ヴェルナレット嬢が飛びつかんばかりの勢いで、ベルモン商会の商会長アルノー・ベルモンに寄っていった。
嬉しそうに彼の両手を握って、くるくると回る。
ふっくらとしたお腹の彼は困ったように眉を下げながら、合わせるように回っていたが、途中でよろけそうになっていた。
契約の話は、ヴェルナレット嬢が進めた。
驚くほどの手際の良さ。
契約を詰めるのも手慣れた様子で、ベルモンとの息もぴったりだった。
――お嬢さまが領地からいらっしゃらなくなったとお聞きした時は……
何かを言いかけたベルモンを、ヴェルナレット嬢は「あーあー」と声を上げて遮っていた。
聞かせたくないことがあるのだろう。
「……悪女、か」
契約書を読むのが得意で
商会長の手を握って踊って
服飾店では異性に挨拶回りをし
一番高い商品を買おうとする。
悪女と言えば、悪女なのかもしれない。
だが……
――可愛いのは、似合わないんです。
妙に潔い発言。
確かに似合っていなかった。
だから、店員に助言を求めれば、
彼女はなぜか慌てていた。
申し訳なさそうに背中を丸めて、落ち着かなく周囲を見渡して。
自分の行動は、普通のことだと思う。
望んだ物を揃えるのが店の仕事で、客として要求するのは当然だ。
それなのに――
菫色の瞳が、困ったようにルシアンに向けられ、
それをまっすぐ見下ろせば、諦めたように視線を逸らされた。
……なんなんだろうな。
不可解なのは、彼女の方なのに。
妙に胸がざわつく。
……だが、考えるのは苦手だ。
面倒なことは放棄して、部屋の灯りを消せば、机の上の燭台の灯りだけになる。
ゆらゆらと揺れる炎。
暗い室内で、ほんのりと明るく、やさしく。
不思議とヴェルナレット嬢に似ているような気がする。
ふわり、ふわり。
ゆらり、ゆらり。
いつまでも見つめているわけにもいかず、
そっと息を吹きかけて消す。
それでも――
揺れる残像が、まだルシアンの心を灯しているようだった。




