18、地獄のデート0
――悪女としての一日が始まった。
朝から地獄だった。
マルグリットさんの指示の下、クララとサビーヌ、そしてレネまで参加して、いつもの如く『コルセットぎゅうぎゅう儀式』が始まった。
初のお出かけのせいか、みんなの気合がいつも以上で――
とにかく痛かった。
途中でレネが気づいてくれて、緩めてもらえた。
いっそのこと、気持ち悪くなってルシアン様とのお出かけ自体がなくなっても良かったんだけど。
……そうはならなかった。
ドレスは、ミレーニアが持ち込んだことになっている三着の内のひとつ。
アイボリーとエメラルドが調和し、レースがふんだんに使われた、とにかく華やかなドレスだ。
(……全然似合ってないけど)
完全にドレスに着られている。
主役はドレス。ミレーニアの方が付属品のようだ。
クララたちは、ドレスに合うよう、髪と顔も整えるつもりだったようだが、それをするともう、ミレーニアは跡形もなくなる。
別にルシアン様と出かけるだけならそれでもいいのだが、その後、ベルモンさんに会うのだ。
ベルモンさんがミレーニアと気づかなかったら困る。
……というわけで、顔はほぼいつもと同じ。髪はどうしても変えたいと言われたので、どうせなら、憧れの編みこみをお願いした。
なにせ、ミレーニアもレネも不器用なのだ。
チャレンジはしたものの、無理だと悟ってすぐ諦めた。
人生初の編みこみは、予想以上に可愛くて、少しだけ気分が浮上した。
そうして準備万端、いよいよ、ルシアン様の前へと連れて行かれることになった。
躓くことなく、長い裾をさばき、階段を下りる。
だいぶドレスにも慣れた。運動神経だけは、いいのだ。
それでも、足元から目を離すのはまだ怖いので、降りきってから顔を上げた。
(……まぶしい)
久しぶりにお会いしたルシアン様は、相変わらず眩しかった。
誰かの画策なのか、たまたまなのか、ミレーニアとお揃いにも見えるアイボリーのコート。
ただし、そちらには差し色が一切ない。
非常にシンプルでありながら、これ以上ないほどにルシアン様を引き立てていた。
(もう帰りたい……)
あれの隣にどう並べというのか?
隣どころか、1メートル離れてても嫌だ。
いつも傍に控えているジュール様だって、そこそこ顔がいい。
うっすらとした顔の良さだ。ルシアン様の後ろだろうが、隣だろうが、どこにいても、それなりの存在感を放っている。
そう考えると、ジュール様も含めて、1.5メートル以内を歩きたくない。
(嫌だけど……この苦行が終われば、……ベルモンさん、ベルモンさん)
ここを越えなければ、ベルモンさんには会えないのだ。
そう思い切り、ミレーニアは意を決して一歩一歩ルシアン様に近づく。
「……おはようございます」
せめてもの抵抗で、1メートルは空けた。
しかし、その距離は、たった一歩で詰められた。
ルシアン様は脚が長い。
ミレーニアとルシアン様の距離はわずか50センチ程度。
いっそのこと目を閉じてしまおうかと、太陽の光が目に入ったふりをして瞼を落としてみる。
「ああ……おはよう」
(……声もいい)
思わず目を開けると、挨拶を終えたルシアン様が背中を向けたところだった。
美しいご尊顔が見えなくなり、こちらは一安心。
(……あ、髪サラサラ……銀色が光に輝いて、なんだか金色にも見えるわ……)
後ろ姿だけでも、そこそこの破壊力がある。
思わずため息を吐きながら、その背中に従って、馬車へと乗り込む。
(……はぁ、わずか数分でこれなら、この後はもっと……んん??)
ミレーニアは遅まきながら気づいた。
馬車の中は狭い。しかも密室だ。
(嘘でしょう……!!)
二人きりではないとしても、これはない。
泣きそうになりながら、ちらりと馬車の中のメンバーを確認する。
(ルシアン様、ジュール様、マルグリットさん)
とりあえず隣はマルグリットさんで落ち着くものの、真向かいはルシアン様だ。
(よし、視界はジュール様一点、もしくはマルグリットさんとお話しするか……)
いかにルシアン様の顔を見ないようにするか、ミレーニアは考えを巡らせた。




