15、銀の君、純度百パーセント
――ヴェルナレット嬢がこの屋敷に来てから、一週間ほどが過ぎた。
あれから、彼女とは顔を合わせていない。
「あの……坊ちゃま、明日でも良いのですけど……」
時間帯を気にしているのか、マルグリットが、おそるおそる提案してくる。
確かに淑女の部屋を訪れる時刻としては、遅い。
分かってはいるのだが――
「違うんですよ、マルグリットさん。坊ちゃまは……」
「お前にその呼び方は許してない」
「えぇ~、では若君は……」
「気持ち悪い!!」
「やれやれ、わがままだな。ルシアンは嫌~な仕事は後回しにしたくない派なんですよ」
「……」
実に的確に言われてルシアンはジュールを睨む。
気にしないジュールは相変わらず、肩をすくめて見せるだけ。
その後ろでマルグリットが小さく頭を下げる。
「……申し訳ございません」
「いい。別に……これくらい、別に……」
力なく言葉を返しつつ、ヴェルナレット嬢の部屋へと向かう。
彼女は自室で食事をとるらしく、顔を合わせる機会がなかった。
そのせいか、妙に緊張する。
辿り着いたヴェルナレット嬢の部屋の前で、小さく息を吐く。
後ろでジュールが笑っている気配がするが無視。
そうして、ドアをノックした。
◇ ◇ ◇ ◇
「は~い」
呑気な声がして、ドアが開いた。
「……」
「……え?ルシアン様!?」
その呼び方は許していないとか、そんなことは全くもって思いつかず。
あまりにも無防備な格好でドアを開けられてしまったことに動揺する。
パタンと勢いよく閉めた。
『え?あの?』
ドアの向こう側から声がするが、とにかく今のままではいけない。
「着ろ!」
『へ?』
「上に何か着ろ!!」
『え……あ、はい』
ちらりとマルグリットへと視線を向ければ、彼女はルシアンの意図に気づいたのだろう、ルシアンを押しのけて部屋の中に入った。
なにやら二人の声が聞こえるが、内容は聞き取れない。
「……坊ちゃま、そんなすごい恰好だったんですか?」
「ただの部屋着だ」
そう……ただの部屋着ではあるが。
薄いので、体の線が丸わかりである。
しかも足首は出ているし。
思わずジッと眺めそうになって、慌てて鼻の頭の、点々としたそばかすへと視線を逸らした。
……そばかすがあって良かったと思った。
「なんだ、ただの部屋着なら……」
「ジュール!!」
こいつの常識は良くない。絶対に良くない。
「坊ちゃま、もう大丈夫です」
マルグリットがドアを開けて、顔を出した。
(……どうでもいいが、マルグリットは最近ずっと俺のことを坊ちゃまと呼ぶのは、なんなんだ?)
“悪女”を婚約者として選んだからだろうか。
不満に思いながら、部屋のドアを開けた。




