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菫色の署名が導く悪女の契約。甘い悪夢は終わらない  作者: 星見蒼


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13/70

13、悪女二日目の朝

「おはようございます~」


今日はきっちり起きれて、レネが来る前には顔も洗っていた。


「おや、顔色が優れませんね」

「だって……」

「どうなさいました?」

「知ってた?昨日のあれ!!」

「あれ?」

「ドレス三着、二百万リア」

「お買い上げ成功、残り三百万リアですね」

「……セラフィーヌ様の私費なんですって」

「無駄遣い!! 契約外の出費ですか?」

「そうなのよ!!こんなのただの無駄遣い。金食い虫よ……」


レネに抱きつけば、今日も『よしよし』と頭や背中を撫でてくれる。


「でも、すごいですね~。侯爵家って本当にお金持ちなんですね。これはわたしの給与も期待できるのでは!?」


キランと目を光らせるレネ。


「ごめんなさいね。安月給で働かせて」

「いえいえ……お嬢さまは一生懸命頑張ってくださってますって」


にっこりと笑うレネに本当に申し訳なくなってくる。


(そうよね……五百万もあったら……レネだけじゃなくて……)


領地のみんなの顔が次々と浮かぶ。

苦しい中、助け合ってきた仲間だ。


「お嬢さま……戻ってきてください」

「……あ」


領地のことを考えるとついつい意識を遠くにしてしまう。

ミレーニアの悪い癖だ。


「お嬢さま、さっそく新しいドレスを着ましょうか?」

「……え?だってサイズ直しが必要だって?」

「なんか特別便?とかで、爆速でサイズ直しがされたみたいですよ?」

「……それも込みの二百万リアってこと?」

「おそらく」

「ふえーん……要らないよ~。そんなサービス要らない……。セラフィーヌ様のお小遣い……すごいな、お小遣いって小さくもなんともないじゃない!!」

「そうですよ。だから気になさらないでください」

「無理。無理よ……でも働いて返すこともできない……」

「立派な悪女になればいいんですよ」

「……そう。そうよね。頑張る」


決意を新たにレネと一緒にクローゼットを覗く。


「で、お嬢さま。どれにします。三着きっちりクローゼットに入ってますよ」

「すごいわ。爆速すごい。でも……どれでもいいんだけど。可愛くなかったし」

「だから言ったじゃないですか。わたし何回も言いましたよね?」

「……う」

「せっかくだから可愛いのにすればよかったんですよ」

「だって安かったんだもん……めっちゃ高かったけど」

「どっちなんですか? まぁ分かります。あの中では安い方でしたもんね」

「怖い。お貴族様怖い」

「お嬢さまもお貴族様なんですって。そういう顔してなくっちゃ」

「……分かったわ。とりあえず一番高いのにしようかしら?」

「この一番似合わない赤いドレスですね」

「……目に痛い」

「だからなんで買ったんですか?」

「同じ話になるからやめましょう」


深紅の薔薇のようなドレスがクローゼットから出てくる。

セラフィーヌ様が着たらさぞかしお似合いになるかと思われるが……着用するのはミレーニアだ。

似合うどころの話ではない。


「セラフィーヌ様に贈りたい……」

「セラフィーヌ様のお金なんですよね? 代理でお買い物したいみたいになりますね」

「……うう……泣きたい」


本日も二人でドレスを着る。

コルセットは無しだ。

昨日よりは手際よく着られて満足ではあるが、鏡の前に立って眺めれば眺めるほど、残酷な光景が広がっていく。


「ドレスは綺麗……」

「そうですね。とっても綺麗ですね」

「この胸元の薔薇みたいなの……すごいわ」

「すごいですね……」

「なんか……悲しい」

「……これ、さすがに豪華すぎません?」

「いいの。とにかく買ったんだから」

「あ、そうだ。お化粧隊をお呼びしますから、そこで待ってください」


示されたのは、豪華な化粧台。

金ぴかの装飾を見て、ミレーニアはついつい数字へと変えようとしてしまう。


(……一体いくらなのかしら?)


「じゃ、行ってきますね」

「え? なに?」


レネに問いかけたのに、急いでいたのか返事はなかった。

大人しく化粧台の椅子に座り、待つこと数分――


レネを先頭にマルグリット様、他二名がやってきた。

お仕着せがとっても洗練されていて、可愛い。

レネにも着せてあげて欲しいなぁと思う。レネは小柄で可愛いから何でも似合う。


(いや……さすがにこの薔薇のドレスは、レネでも似合わないか)


「ヴェルナレット嬢」


マルグリット様はにこりと微笑んだ。

でも目がなんだかギラギラしている気がする。

一緒に来た二人の侍女は表情が読めない。


(……ご主人様に似るのかしら?)


二度ほどしか顔を合わせていないルシアン様と、その侍女たち。

そして、元気いっぱいのレネと自分自身を重ね合わせて、妙に納得する。


「それでは、お化粧をさせていただきます」


マルグリット様の唐突な申し出に、ミレーニアは助けを求めるようにレネを見るも、レネは興味津々と目をキラキラとさせているだけだった。

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